フィリップス (PHILIPS) LHH−1000

   
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PHILIPS LHH-1000

DA コンバータ方式 の変遷
  ナチュラルな音で定評が あったフィリップスの16ビットDAコンバータIC、TDA1541Aですが、これが使 われたのは80年代から90年代前半のCD プレーヤでした。その後1ビットのビットストリーム方式が同じフィリップスから出て音楽好きの間では評判が悪く、そして抵 抗ラダー式のマルチビットICを 展開するバーブラウンなどの他社では20ビットや24ビットへと上げてから処理する方式が出てアルファ・プロセッシングという補間技術と組み合わされ、さ らにビットストリームでありながら3ビットや5ビットなどで処理する折衷的なものが出て、そしてそのまま現在の96KHzや 192KHzへとアップ・サン プリングして24ビットや32ビット分の情報を処理できるものへと移り変わってきました。し かし未だにTDA1541Aが良かったという声も聞かれます。最 後のハイ・ビット/ハイ・サンプリング化はハイ・レゾリューション時代に合わせた動きということですが、CD のフォーマットは最初から16ビット44.1KHz のままなわけです。 

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       TDA1541A (S1)

  TDA1541の前身である14ビット制御の1540はフィリップスの
LHH−2000、マランツのCD−34 やルボックスの225(スチュー ダーではA−725)などに使われ、滑らかで 自然な音だと評されることがあります。16ビットのCD 情報に対して14ビットでは追いつかないように思われるところですが、当時の技術では16ビットで IC を作るのはなかなか難しく、14ビットの方が精度が取れたということに加えて、これらの機種には4倍オーバーサンプリング・ディジタル・フィルターが搭載され(当 時は2倍が一般的だった)、計算上は16ビット分の精度は得られていたということです。ディジタ ル・フィルターは、16ビット機では次数を上げると音に生気がなくなるということを経験しますの で、この14 ビット+4倍オーバーサンプリングの方式が16ビット+2倍オーバー・サンプリングのものと比べて優位だったかどうかは実験機器を作って厳密に比較しないと分かりません。私 が聞いたことのあるルボックスはヴァイオリンの倍音が神経質にならず、なかなかきれいで艶かしい音を出していたのを覚えてい ます。1541機は理論的には それよりも実質情報量が増え、別々のところでしか聞いていませんが、実際の製品では音も高域が繊細で、分解能が高いかのよう な印象があります。ただ、どち らが自然かという問題は機器によって同じチップでも音色は変わるわけで、これもなんとも言えません。前述した通り、同じ環境 で比較し、中の部品なども同じ 構成にしてみないと分からないでしょう。

TDA1541A の方式
    マルチビット(16ビット)制御のTDA1541(A)ですが、その構造は前述のオンキョーC−700が採用していた積分型 とは違い、また、マルチビット の代表的方式とされるバーブラウンの(R2R)抵抗ラダー型とも違います。フィリップス独自のこの方式は
DEM(Dynamic Element Matching )と呼ばれるもので、各ビット間の製造誤差が問題にされる抵抗ラダー型に対し、積分型とはまた違ったアプローチをしているようです。抵抗ラダー型が各ビッ トを計算するスイッチごとに個々に電源を供給し、そのバラつきが問題にされるのに対し、DEM方式では一つの電源流をツリー状に分割 して供給し、誤差を平 均化できるのだそうです。正確な説明は技術解説書が読める方にお願いしたいですが、その結果としてスイッチ切り替え時の変化を平滑に するためのコンデン サーがたくさん必要になり、ICの外にその横に並ぶようにして14個が整列しています。フィリップスらしい光景ですが、このコンデン サーの銘柄を何にする かでずいぶん音が変わり、マニアが色々といじる部分ともなっています。

LHH−1000 の特徴
   さて、TDA1541Aを使った数多くのCDプレーヤーの中で、本家フィリップスが作ったうちの最高のものが LHH−1000です。これはトランスポートとDAコンバータを分離した二階建てのタイプです。トランスポート部分も CDM
1 という、ローデンシュトックのガラスレンズを使っ たス イングアーム式のピックアップをダイキャス・トフレームに入れた、耐久性の高いドライブを使っていました。メインテナンスも効くよう に設計されていたの で、今でもこうしたポリシーで作った製品があってくれたらなあと思います。フィリップスには以前ベルギー工場があり、自社の電解コン デンサなどを使ったモ デルを出していました。 ブランドは違いますが同じところで作っていたマランツのCD−34は安いなりに採算を度外視した作りで、中古市場では今でも人気があります。この LHH−1000はそれらとは違って日本製ですが、分解能は高いながら同様な音の傾向を持っており、その後1ビット機へと移って行っ たフィリップス=マラ ンツ系のプレーヤーの中で最後の輝きを放っています。

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       Marantz DA-12    マランツ・ブランドで主に欧州向けに販売された DA コンバーターで、中身は LHH-1000 とほぼ同じ。共通するサイドカバーなど無用に重いダイキャスト製で、デザインも両機ともに高級感があった。

   回路は1541Aのシングルクラウンを単独で使ったもので、トロイダル・トランス(ドーナツの形をしています)をディジタル/アナログ部で分けて三つ使用 する電源を持ち、平滑コンデンサもアナログ部は大きなものが使われていました。ベルギー工場で作られていた下位のCDプレーヤと比べ ても中高域のソリッド さ (固形感)が少なく、きれいな音でした。やや線が細くてサラッとした弦の感触がありますが、評判を裏付けるバランスの良さがあったと思います。4倍オー バー・サンプリング機独特の、その中高域の鈍く塊感のある響きはやはり持ってはいるものの、部品選択によって分解能が上がったような 感覚(幾らかハイが上 がったようなバランスにも聞こえる)を出すことで鈍さを抑えてあるのです。その分他の欧州のメーカー製で
1541 を使った音楽系のプレイヤーと比べるとややきらっとした感触があるとも言えますが。

 そしてこのLHH−1000を買おうと思っていたときに聞き比べたのがオンキョーのC−700です。オンキョーの方は定価 で13万ぐらいの安いもので、ピックアップ部も軽くてプラスチック多用の構造であり、デザインは日本製独特の子供っぽいデコレーションでしたので決して欲 しくなかったのですが、これがどうやっても1000より表情が豊かでした。毎日触るものの見栄えが残念なのは機能に関係なくても ちょっと嬉しくありませ ん。オンキョーを買った後、どこかでフィリップスのあの二段プレーヤを見かけるたびに後ろ髪を引かれる思いでした。
  



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