イースタン・ エレクトリック(Eastern Electric)
M i n i m a x


   
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       上 段が初代 Minimax で、下段がプラス。上のものはメーカー名とモデル名、POWER、VOLUMEなどの文字を剥離剤で消してあります。

製品の 性質
 香港とアメリカの共同出資で作られたメーカーのDAコンバータ です。名前のセンスがまた素晴らしく、イタリアのおみやげ旅行鞄メーカー MAXITALIA の上を行くような気がしないでもありませんが、なぜこれかというと、テキサス・インスツルメンツやウォルフソン、シーラスロジック等が一般的な最近のDA コンバーターICの中で、昔のフィリップス製TDA1541Aに勝るとも劣らない高精彩かつナチュラルなものが ESS・Sabre (セイバー:アメリカ製でもイギリス表記?)社の9008や9018のシリーズだという話をよく聞くようになったからです。中でも32ビット版の9018 は最高峰で、オーディオファイルのみならず音楽好きにも大変評判が高いとのこと。人によってはこんなに空気感の出るものは他 にないと言いますし、実際に音 楽的なプレーヤーと評価されるものに採用されるケースが多くなってきました。黎明期の良く出来たコンバーターを評価する方で すらそれを超えたと考える場合 もあるようです。感じ方は人それぞれですが、「でもひょっとして本当か?」と思い、色々調べた結果この中国製DAコンバータ を試すことにしました。この ESSのICチップについてはバッファロー社からそれを使った半完成の基盤も出ていますし、内外の高価なDAコンバータもあ るのですが、イースタン・エレ クトリック社のものは安価なのに大変評判が良く、なおかつチップ部品を使っていないところが音質面で有利であり、部品取り替 えによる改造の余地もあるため に選びました。

ESS9018
 ESSの Sabre 9018は6ビットで音圧側を処理するΔΣ変調のDAコンバーターICで、32ビット 192KHz 対応というだけでなくDSDファイ ル(SACDのファイル形式ですが、SACDプレーヤーから直に取り出すことは普通はできなくされています)もそのままアナログ変換できるチップです。音 圧側を1ビットにしないのは、これだけの情報量を扱う場合は1ビットでは対応しきれないからということのようです。6つに仕 事を分担して処理する、現代の 最高性能を誇るDAコンバーターICの一つです。

Minimax と Minimax Plus
 初代のミニマックスと、その改良版のミニマックス・プラスがありますが、主な変更点はプラスの方が電源ト ランスがディジタル/アナログで分離給電になり、USB入力の基板が評判のM2Teck 製のアシンクロナス・モード(非同期型)のものに変わることで192KHz/24bit まで対応するようになったというところでしょうか。M2Teck は2009年にこの小さくて高性能な部品を安価に出したことで一躍有名になったイタリアの会社で、そういうところに自社用基板供給を頼むあたり、イースタ ン・エレクトリックも商売上手だと思いま す。

 それ以外では、中を見ると一部ルビコン製だった電解コンデンサがニチコンになっていたり、リレーが増えて いたりして若干変更もあるようですが、同軸入力に関してはほとんど違いはなさそうです。それと入力ボリュームは旧型には日本のアルプス電気製のものが付い ていましたが、プラスの方は省いてあります。音質を最優先させた結果でしょう。これはちょっとした手直しでショートにできる ので(単にボリュームをバイパ スして直結にするだけ)旧型でもさほどマイナスではありません。

真空管出力とオペアンプ出力
 切り替えスイッチでオペアンプ(IC)出力と真空管出力が選べるようになっていますが、メーカー標準の状 態ではオペアンプの方が音のつぶれが少なく、すっきりとした印象です。そのオペアンプで聞いてみたところ、同軸入力での音は新旧でほとんど同じような感じ ですが、比較すると旧型の方が低域と高域がやや強調され、反対に新型の方が中域の3キロヘルツ近辺を中心に上下にいくらかの 幅でややエネルギーの強いとこ ろがあるように感じました。どちらかが素晴らしく良いという種類の違いではないのですが、若干新型の方が好ましく感じられた のは、私が試聴した個体がク ロック回路を改造交換されたものだったからかもしれません。オリジナルではこの違いはもっと少ないはずです。ディジタル用の トランスが独立したことと、ボ リュームを抵抗0で通過するワイアリングのみの違いですから。低周波ノイズ吸収のために付いていると思われる電解コンデン サーも新型のニチコンより旧型の ルビコンの方が音色的には癖がないような気もします。これは恐らく供給停止にともなう変更でしょう。

           
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       多 くの部品を換えてみました。ボリュームは外して直結にしてある。上はカップリング用に試したコンデ ンサ。

オペアンプの交換
   というわけで、旧型のミニマックスの方に少し手を加えてみました。まず最も簡単にできるのはオペアンプの交換です。このDACはマニアの要望に応えるため に最初からソケット式のアダプターが付けられており、ただ引き抜いて差し込むことで交換ができます。標準で付いてくるのはシ グネティクス社が設計した古く からのICであるNE5532と5534のテキサス・インストゥルメンツ版です。まず、アンプの出力として使わ れている1回路用の5534を、以前に使ってみてその音に信頼を置いているアナログ・デバイセズのOP42に交換してみました。高域が少し細くてやや神経 質なうるささを感じさせていたものがしっとりと落ち着き、それでいて情報量はむしろ増えたように聞こえます。これだけでク ロックを交換した新型の「プラ ス」とほぼ互角な感じです(クロックによる音質改善については世間で大げさに騒がれ過ぎのように思います)。

 さらにI/V変換部の5532を同じくアナログ・デバイセズのOP275に換えてみます。ここは処理速度 の速さが求められるところですが、交換後の改善は出力部の交換ほどではなく、若干高音に落ち着きが増え、全体にわずかに押し出しが強くなったように感じま した。その差は明らかに交換した方がいいというほどではありませんが、個人的にはOP275の方が好みでした。

 そのOP275は2回路のオペアンプです。さきほどのOP42は1回路ですが、OP42の方がデータシー ト上ではスルーレートなどの特性が優れていることになっています。そこで1回路のオペアンプを2回路に変換する基盤を使ってOP275の代わりにOP42 を片chダブルで動作させるようにしてみました。するとOP275より繊細で高域の情報量が増えたように感じましたが、最初 の5532も高域の細さがあ り、OP42も同じような傾向があるため、どちらも若干やかましさを感じます。これ以上の改造をしないのであれば、案外 OP275で行った方が落ちついて いるかもしれません。

真空管の交換
 真空管の交換という手もあります。ミニマックスは12AU7を一本用いており、「我々は真空管こそが最善 のデバイスだと信じる」みたいな文言がホームページにうたってあるぐらいです。標準の状態では真空管出力の方がオペアンプに比べて音につぶれを感じたと書 きましたが、これは中域の圧迫感とも言い換えられる性質のものです。そこで、以前ソフトンのモデル2で気に入ったテン (TEN)の真空管を手に入れ、試し てみました。このメーカーは他の日本製のものよりマイルドな音がする傾向があります。しかし今回は高域がやや引っ込んでしま いました。それでいて中域の圧 力感は標準管と同様に残っています。

 東芝の通信管も試してみました。こちらはテンよりも高い方が繊細に伸びてなかなか良いバランスになりまし た。標準管よりも細やかです。しかし中域の圧迫感はやはり少し残り、オペアンプよりも押されているような感じがします。カップリング・コンデンサを交換す るなどして元から全体に調整したい誘惑に駆られます。

 ウェスティングハウスのブラックプレート(Westinghouse Blackplate)もebayで手に入れてみました。DIYオーディオなどで褒められていたのを読んだからです。ブラックプレートというのは、カーボ ンを黒く表面に吹きつけてあるのでそう呼ばれています。ウェスティングハウス製のそれはレイセオンのブラックプレートと同じ もので、ブランドロゴのみ変え て供給されたOEM品のようです。これはなかなか素晴らしい音でした。繊細で心地よく、オペアンプよりも若干ライヴな張り出 し感がありますが、前述日本製 の二つほど中域強調が目立つことはなく、むしろその帯域が魅力に感じられるほどです。こうなるともはやオペアンプが勝るとも 言い切れないようです。むしろ 細やかではあってもオペ・アンプの方が余韻が付き過ぎるようにすら感じます。ただこの真空管、低音がやや強調され、ときに ブーミーに感じる場合もありま す。8KHz より上あたりのかなり高い部分にも若干の強調があり、そのせいで繊細さは一番良く感じられます。一方できらびやかな色付けは一番目立たない部類でしょう。

 ついでにミサイルメーカー・レイセオンのブラックプレートだとうたっている別のものも試しました。しかし これも前記のウェスティングハウス同様ボールドウィンのロゴになっているOEMの真空管です。こちらはワイヤー・ゲッター(真空管内部の上の方に突き出し ている天使の環のようなアンテナ状のもの)がラウンド形(O形)で、スクエア形(D形)のウェスティングハウスとは異なって います。音はかなり似ているの ですが、このラウンド形の方が若干荒さがあるような気もします。

 評判のRCAクリア・トップも試しました。CONNブランドのOEM品ですが、中身は同じです。通常真空 管はゲッターというものによって頭の部分が銀色をしているのですが、このクリア・トップはそれが胴体の横に移動しており、頭は透明なガラスそのままになっ ているのでこう呼ばれます。市販のDACの中ではこの真空管を採用したものだけを1グレード上の Supecial Edition にして出しているところもあるぐらいです。
 これは素晴らしい音でした。ウェスティングハウスのブラック・プレートでスクエア(D形)ゲッターのもの と比べると、帯域バランス的にはやや上寄りに感じます。低音のブーミーさが減ったせいでしょうか。一方で8KHz以上のサラっとした高域の強調もあまりあ りませんが、その少し下の帯域での高域にわずかに艶が乗り、透明感もあって大変綺麗に聞こえます。空間に障害物が何もない透 明さではなく、レンズを通した 透明さなのかもしれませんが、ピアノなどできらっとした美しさを感じさせ、弦もみずみずしく聞こえます。ある種特有の輝きと もとれるのですが、DAC自体 のソリッドな音の出方を強調しているのかもしれません。ウェスティングハウスよりこちらを好むと言えば、今まできらびやかさ が嫌いと言ってきたことと矛盾 するようですが、このDACに関しては次善の策なのか、クリア・トップの方が良く聞こえます。

 これ以外にはヨーロッパ勢の真空管もあります。英国ムラードのロングプレート・スクエアゲッターで底の刻 印がなにがしというものが相当良いようなのですが、お値段も相当良いので手に入れてません。ミニマックスがわが家のメイン機になるなら考えようかと思ったのですが。

位相切り替えスイッチ
 さらに音にかかわる操作がもう一つ。このDACには絶対位相切替えスイッチというものがついています。絶 対位相というのは、楽器の音が奏でられた瞬間に発せられる音の疎密の向きのことのようです。オーケストラのように様々な周波数の楽器が同時に鳴っていると きの、途中のある一点を考えてみると、個々の楽器の位相がどうなっているかは問題にしても意味はないように思えます。しかし ティンパニや大太鼓をドン、と 叩いた瞬間には、革が凹んでその周囲の空気が疎になります。それから革が戻ってきて空気を圧縮するので今度は密になります。 これはスピーカーのコーン紙で も同じことが言えます。その際、最初の一撃を基準に位相が正しく再生されるか、逆向きに再生されるかの違いが出てきます。太 鼓がこちら向きに置かれていた として、それが叩かれた瞬間(厳密に言えば音がマイクに到達したときの波が疎の瞬間に、ですが)にスピーカーの振動板が凹め ば、録音時と再生時で位相は正 相ということになります。つまり絶対位相が正相、逆相というのは、録音時と再生時の間の立ち上がりの位相のことです。スピー カーなどでよく問題にされる二 つのユニットの同一周波数間の位相のことではありません。これが人間の耳に聞き分けられるのかどうか、私にはよく分かりませ ん。スピーカの低音用ユニット の箱の上に高音用ユニット(ツイー タ)を乗せ、後者を前後にずらすことでクロスオーバー周波数付近の二つのユニットの位相を揃えるという作業をしたことはありますが、私の耳ではどこが正し い位置か聞き分けることはできませんでした。絶対位相の方はどうでしょうか。

 なぜこんな面倒な話が出てきたかというと、DAコンバーターではディジタル信号をアナログに変換した直後 にI/V変換(電流/電圧変換)という回路が必要になり、そこで位相が180°ずれてしまうということが起きます。したがってディジタル機器の登場と同時 にこの絶対位相ということが問題にされるようになったのだそうです。同じような位相ずれの問題は録音機器間でも起きるようで す。アメリカ製の機械とヨー ロッパ製の機械では位相の扱いが逆になっている慣例があるそうで、混在させて使う場合には絶対位相がずれますし、初めから録 音機材の位相管理に注意を払っ ていないケースもあるようです。しかし我々は手にしたCDを前にして、それが録音時と正相か逆相かは知らされていませんの で、このDACの位相ボタンを押 すべきか押さないべきかは分かりませ ん。ただ、耳で聞くと違いは分かります。フェーズ・ボタンを押すと、どうも高い音が若干丸まり、中域の圧力が増えたようになり、戻すとその圧力が弱まると 同時に細く繊細な部分が少しだけ増えるように聞こえます。これは位相差という範囲を越えている問題で理屈に合わないのです が、どういうことでしょうか。変 わるはずのない持続音の音質が変わるということは、位相を逆転させる回路において、副産物として音に色付けがあるということ かもしれません。

音質
 さて、特別な改造をせずにオペアンプや真空管のみの交換で調整したミニマックスDACの音は、ハイスピー ドをうたう最近のより高価なDAC/CDプレーヤの平均的な音より落ちついていると言えるでしょう。ただ、前述のオンキョーC−700やNaim CDSに比べるとやはり音の広がりに隙間が少なく、圧迫感を感じます。録音ソースによってはそこがきつさに感じます。オンと オフの変化が少ないとも言えま すが、これは帯域バランスの問題ではないので、その音だけただ聞いていると分からないこともあります。オンキョーや TDA1541機に変えてしばらく聞い ているうちに、あ、やはりこの方が静寂感と音色の変化幅があるなと感じます。逆にミニマックスに戻すと少々やかましく感じま す。

改造
 それでも、周辺部品のせいでそうなるのかDACそのものがそういう性質なのかについてはこの時点ではよく 分かりませんでし た。というか、分かりたくなかったんです。そこで今回も部品の交換を施してみました。何度も取り替えていると基板が痛みますので、音を知って信頼している 部品ばかりを集め、まずは一挙に交換してみました。内容は概ね以下の通りです:

 フィルター回路に使っていると思われる青いボックス形のフィルム・コンデンサをスチロール・コンデンサ に、高周波ノイズ取りと思われる0.1uF のグレーのフィルム・コンデンサをシーメンスのMKH100Vに、ニチコンFW 電解コンデンサをフィリップス036と一部ニッケミのSMGに、カップリング・ コンデンサをインターテックの錫箔KPSNに、0.1
uF のを JENSEN 銅箔オイルに、1W以上の酸化金属皮膜抵抗をKOAのカーボン系シリコンコーティング抵抗のSPRに、7812の3端子レギュレータをフィデリックス製のローノイズ・タイ プに交換しました。この結果、音はさらに自然で繊細になりま した。

試聴と結論
 しかし色々やってはみたのですが、ここまで努力した割には劇的変化ではありません。結論から言うとこの最 新の機器、音の自然さの点でどうも昔の機械に勝っているとは思えないのです。比較的出方がやわらかいと言われることもあるウォルフソンも含めて、最近の データの良い機器がどれもこういう傾向だったのでESSについては期待していたのですが、今までの印象を覆すには至りません でした。いったいどういうこと なのかと思いますが、画素競争をした結果コントラストを失っている最近のデジタルカメラのような理屈でもあるのでしょうか。 音に関しては
、 収差の甘いレンズが付いた銀塩カ メラの方が味があると言う場合のように、中間色とぼけ味のことだけを問題にしてるわけではないので、やわらかい音であれば満 足するという話ではないのですが。

 余談ですが、余分なことを言ってしまったので今の話を補足しておきます。カメラでも以前同じようなことを経験したのです。 同じ面積の撮像素子(以前の フィルムに相当)を持つ500万画素の古いデジカメと、より高精 細な1200万画素の新しいカメラで同じときに同じ被写体を撮ってみたところ、細部を拡大して見ると1200万画素の方が細かく映っているのに、普通に見 ると逆転し、500万画素の方がはっきりくっきりと見えるのです。これは「解像度」という性能と「コントラスト」という性能 がトレードオフの関係にあり、 あちらを立てればこちらが立たずとなるためです。カメラに詳しい人はMTF曲線としてレンズでも同じ相補反比例の関係が存在 することを知っているかもしれ ません。私たちの世界は常にこのような不確定性原理みたいな状況に陥ります。解像度は「○○万画素」としてカタログでうたい 文句にしやすいため、今のカメ ラはいたずらに画素数を上げて眠い写真をつくり出しています。どうもオーディオにおいても同じ種類のことが起きている感じな のですが、カメラほど原理がよく分からないところが難点です。

 脱線しましたが、192KHz へとアップサンプリングする最近の機械が原理的に優れているのかどうかは疑問だとオンキョーの項で言いました。同じ装置、同じICでの比較実験は難しいの で素人の私はなんとも言えませんが、192KHz に対応しながらも入力に対してのサンプリング・レートの変更は行わず、ディジタル・フィルターも用いない設計のDAコンバータもあります。 流行に逆らってわざわざそうするというからには意味があるのだろうと思います。ESSのDAコンバーターICは、サンプリン グ・レートもフィルターの種類 も選べるようになっているようです(デジタル・フィルターはチップの中に数種含まれています)。イースタン・エレクトリック がここでどういう仕様にしてい るのかはアナウンスされていないので分かりませんが、恐らくデフォルト仕様でしょう。入力の192KHz 対応をうたっているのですから、CD情報のアップサンプリングも行っているだろうと思います。そしてそう考えて今回いじってみた限りで思ったのは、CD フォーマットである44.1KHz の処理しかしない昔の機械より音質的に優れているということはないということです。自分の中の絶対評価ではやはりC−700(積分型16ビット+2倍オー バーサンプリング)やCDS/CDA−94改(DEM型16ビット4倍オーバーサンプリング/ノン・ オーバーサンプリング)、DCD1500/1300(抵抗ラダー型16ビット2倍オーバーサンプリング)に表情の豊かさで及びませんでした。ESSのこの 機械は一瞬きれいな音にはっとすることがあるのですが、変化の幅が少なく、冷静で躍動感が少ないように感じます。きれいな音 が数珠つなぎに一つの壁となっ て一列に押し寄せてくるような聞こえ方です。部品をいくら換えて行っても、高域のディテールがはっきりする部品を多用すれば 全体がきびやかになり、やわら かい音の部品にすれば全体がオフになって、その間のダイナミックな差が出ないのです。これはPCM1716のソフトン・モデ ル2にも感じた傾向です。真空 管の特徴かと思ったのですが、オペアンプ出力に切り換えても、音は変わるながら出方は同じでした。ちょっとしたことかもしれ ませんが、長く聞いていると圧 迫感があり、倦怠感というか、疲れに影響するようです。この平板さがオーバーサンプリング技術を用いたビットストリーム機の 特徴なのか、アップサンプリン グのせいなのか、ディジタルフィルターの弊害なのか結論づけるだけの確信はありません。ただ、IC がより集積化して小さくなり、フィルター部分まで含めて一体化して行く今の技術的進歩が音に余裕のない方向へ向かわせている気はします。

 色々疑問を並べてしまいましたが、このミニマックス、もちろん現行モデルの中にあっては優秀な方だと思います。I/V変換 のオペアンプと真空管を上手に 選んであげれば、わざわざ今回のような改造をしなくても楽しめます。音楽愛好家であってもこれが一番好きという方が大勢い らっしゃることでしょう。



* この記事を書いて大分時間も経ち、ESS の DA コンバーターチップも新しいモデルが出ています。このときは音色はきれいでも平面的だと感じましたが、開発者は新しいチップでは奥行きのある表現を狙った と語っているようです。実際どうなのかは確認してませんが、技術開発は常に行われているわけで、良いものが出ることを期待しま しょう。そしてここでは Minimax をもって ESS9018 を代表させているような書き方ですが、制作者によると回路には色々なコツもあり、似たように見えて違いも随分出るそうです。したがってここでの音質評価は この機種だけに限定しておいてください。同じチップで百万も二百万もするようなのを出されると馬鹿ばかしい気がするものの、ここ でやってるようなパーツ選 択による音質改善とは別の次元の話もあると思います。そのあたりは私はディジタル技術者ではないのでよく分かりません。個々の完 成されたコンバーターに あっては、理論やデータを重視して設計するのではなく、市場の解像度神話に合わせて高級オーディオらしく提供しようとするのでも ない音楽的な感性による商 品にこそ良いものが出るはずです。そしてそれは今の状況からすると残念ながら今後も少数派であり続けるのだろうと思います。



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