マッキントッシュ(Mckintosh) MX406S 

   
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上 段がMX406S

製 品の性質
 実はこれ、カーステレオです。有名なニューヨーク州ビンガムトンの会社に監督を受けて買収先のクラリオンが開発したもので、当 時16万円ほどした高級機 でした。ナビとハードディスク・プレー ヤーが主流になった今となってはこういう製品自体が成り立ちませんが、98年当時は「カーステレオのレベルを超えた本格オーディオ」などと言われていまし た。小さく作るためにチップ部品を多用しているのが若干気になりますが、心臓部のDAコンバータICはフィリップス のTDA1541Aが供給停止になった後で多くのメーカーが代替に用いたバーブラウンのPCM1702を使っています。1702は Linn の200万円の高級プレーヤーであるCD12や、 Naim のフラッグシップであるCDSの後継モデルにあたるCDS2にも使われているほか、ワディア、クレル、マークレヴィンソンなどハイエンド機に軒並み採用さ れています。前モデルである18ビット動作のPCM61や、後述する16 ビットのPCM56などと評価を分かつ形でバーブラウンのマルチビットDAコンバーターの最高峰(後継の1704も含めて)とも言われます。しかしこれを 積んだプレーヤー、気にはなるものの高価なものは買えません。そこで今回はベッド脇のサイド・テーブルに収納する目的でこのカー ステレオを中古で買い求 め、いじり倒してみました。 チップ部品を使うとはいえ、1702のアーキテクチャーはどれもさほど変わるものではないので、マルチビット最終型の傾向を何か感じることはできるかもし れません。

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       旧 型のSunVallay SV-9t (左)を多少改造してボディを黒く塗ると、ミニ・マッキンのセットが誕生しました。ちょっとMC275風?


406と406S の違 い
 Sの方に限りますが、ノーマル状態で 往年のマッキントッシュのパ ワーアンプを彷彿とさせる厚みのある滑らかな音に感心してしまいます。低域寄りのバランスは独特の落ち着きがあってなかなか魅力的な上、高域も美音系の色 こそ感じますが、そこがまた艶と独特のコクでもあり、何気なく聞いていると「これがいい」と思わせるような巧い音作りがされてい るのです。MX406とそ のハイグレード版のMX406Sを両方試しましたが、通常マイナーチェンジでグレード・アップということになるとバランスを崩し て高い方の鮮度が上がり過 ぎ、うるさい音になりがちなところを、このSへの改善では滑らかさが増している感じがします。調べてみると中の電解コンデンサー が普及品からエルナーの キャンディー・レッドのものに多数変わっています。 エルナーのオーディオ用電解コンデンサーはどれも高域が輝かしいので怪しんだのですが、このコンデンサについては例外のようで、外して他と比較してもなか なかバランスのとれた音がします。見てくれはセラファインに似ていますが専用の低背型特注品なのでしょう。

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     電解コン デンサーはブラックゲートNXやタンタル、OSコンなどに変更しました。フィルムコンデンサーはフィリップスやシーメンスのスチロールに換えてあります。


 さらによく調べてみると、チップ抵抗の銘柄が一部変わっています。 特徴的な水色がかった文字部なので何だろうと思っていたら、KOAのオーディオ用が同じ顔をしていることがわかり、取り寄せて406の方に使ってみまし た。すると硬さがとれてSと同じような音になってきます。なるほどと気を良くして他の場所もこの抵抗にどんどん換えて行ったとこ ろ、途中からバランスを崩 してまたきつい音になってしまいました。結局406Sと同じ部分のみの交換にしておきました。メーカーも色々と音合わせをしてい るのだと思い、驚きます。 こういうことができるのはクラリオンの技術者なのでしょうか、それともマッキン側なのでしょうか。しかしこのMX406Sも後に 別のシリーズへと展開して 行き、音はどんどんクッキリハッキリ系のきつくなる方向へ行ったようですので、誰にせよこのとき音合わせをした人のセンスが良 かったのだと思います。
   
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       上 部水平方向にトーンコン トロール基板があり、切り替えスイッチでジャンプできるように工作し ま した(左側にぶらさがっているのがスイッチ)。電源コンデンサはブラックゲートFXに交換しました。写真ではまだそうなっていませんが、トーン回路のコン デンサーもスチロールに換えたところ、バイパスせずとも音の劣化がさほど気にならないレベルになりました。
        

構成と改造、音質
 PCM1702は20ビットで内部処理しています。デジタル・ フィルターは8倍 オーバーサンプリングです。デンオンのアルファ・プロセッシング方式と組み合わせて使われることも多かったようで、このプレーヤーでも専用のIC を使っています。I/V変換のオペアンプはバーブラウンのOPA2604、アナログ出力部はアナログ・デバイセズOP275 で素性は良さそうです。今回は 電解コンデンサやフィルム・コンデンサの類を取り替えて音合わせをすることにしました。また、オート・ラウドネス回路が内蔵 されていますが、それは外し (ネットに親切にやり方を載せている方がおられます)、トーン・コントロール回路も一台はショートさせて取り外し、もう一台は切り替えスイッチでジャンプ できるように工作してみました。結果として二台とも音の鮮度を上げながらも元々の太く艶のあるバランスを維持させて仕上げる ことに成功しました。大変魅力 のある音ですが、それでも造られた音色ではあり、やはりオンキョーC−700や Naim CDSと比べるのはちょっと無理があります。先々代ぐらいになるPCM56を使ったDENONのプレーヤーにも表情の豊かさ では負けるように思います。た だ、真空管アンプの社長さんにオンキョーと両方を聞いてもらったら、このマッキンの方が好きだとおっしゃっていたのは印象的 でした。人によっては好みの範 囲と言えるのでしょう。私もこの音は気に入っており、カーステレオ用の設計のためCDが終わるとまたリピート再生になること もあって、一台は居間に置いて おいて作業するときのBGM用として、またFM用にと大変重宝しています。見栄えを良くするためにケースもこしらえてみまし た。枕元のはマホガニー調のウ レタン塗装、居間のはチークの無垢材です。東急ハンズでさくっと切ってくれました。

 ちっちゃくてブランド指向のデザインで、マッキン好きでなくてもなんかくすぐるところのある製品です。枕 元用には マッキンMC275のミニチュアのような真空管アンプ・キット(SV−9t)を組み立てて組み合わせ、リレーで連動するようにしました。そしてこの記事の ようにわざわざ改造しなくても、406Sは最初からなかなかのバランスの音です。




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