オペアンプの音 質比較    

          
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オ ペアンプとは
 オペアンプ (operational amplifier) はパッケージ化されたアンプ(増幅回路)です。しかし純粋な増幅目的としてだけでなく、様々な用途に 使える汎用のモジュール IC であり(ここでは ICオペアンプの意味に限定しています)、オーディオ機器のアナログ信号に関わるいろんな部分に使われていて、これを取り替えることで音質を変化させるこ とができます。元来取り替えるためにパッケージ化されたわけではないのですが、専用のソ ケット台をあらかじめ基板に取り付けておくと、ただ抜き差しするだけで簡単に本体交換ができるようになるので、ヘッドフォン アンプのマニアたちの間でここ をいじることが流行ったりしています。コンデンサーや抵抗などと同様、どんなオーディオ回路でも部品を換えれば音が変わります。いくつかのメーカーからた くさんの種類が出ていますので、オペアンプ交換はひとつの楽しい遊びたり得るところです。
 また、アナログ信号経路のアンプとしての使用例は、前述したヘッドフォンアンプ以外にも、プリアンプ、CD プレーヤーや DA コンバータの出力調整部などに見られますが、大きな増幅を行ってスピーカーを鳴らすパワーアンプ用途としては、
パ ソコン用の外部スピーカーのアンプ基板などで用いられる一部の電力増幅可能なパワー アンプ IC (オペアンプ形式ですが、普通オペアンプとは呼びません)を除いて例外的です。
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  オペアンプを簡単に 差し替えられるようにするソケット(ボディ左側の半円の切り欠きがある側の手前端が1番ピン)

実 際は各オペアンプごとに高周波におけるピークの出方に差があり、それを補正するコンデンサーも容量が異なっています し、発振しやすさも個々の特性によって 違いがあるので位相補償のあり方も個別に当たらないといけないことです。こうしたことを無視して(理解せずに)ただ オペアンプを差し替えて遊ぶのは技術者 の観点からは愚かなことになるだろうと思います。そしてそうした立場からだと補償コンデンサーの銘柄による音色の違 いよりも補正に関して正しい値かどうか が重要だということになります。理論的にはその通りで、技術者なら正確な値で相応しい回路を設計し、その上で部品の 音色にも気を使うべきです。ただ、発振 してしまうことを除けばそのオペアンプに最適化した回路でなくても音色の違いが味わえてしまい、実際の使用では満足 行く交換ができる場合も多々あります。 それぞれに正しい回路に直してから比較するのが本筋でしょうが、このページでは簡単に行える素人の応用的な立場で書 いています。

オペアンプの規格  

 オペアンプの規格としては、回路の違いで大きく分けて2種類あります。1回路入りと、2回路入りです。同じものが 一つのパッケージに2つ入って いるか、1個だけかの 違いですが、ピンの互換性はありません。そして厳密に言えば、たとえ同じ1回路入りのものであっても個々のオペアンプには目的や特 性の違いがあり、電圧増幅と電流増幅の違いや、オーディオ帯域での用途と高周波帯域での用途など、様々な
回 路の種類によって適用できる範囲に制限と相 性があります が、おおむね1回路入りの回路には1回路入りのオペアンプをどれでも差すことができ、2回路入りは2回路入りで同じように互換性があります。さらに、1回 路入りのタイプも二つ横に並べて(あるいは裏表にして)専用の変換基板に取り付けると、2回路 用として使うことができます。いじくり屋が考案したアダプターのようなもので、基板の方にピンが出ていて、2回路用のソケットが付けてあるところに そのまま差し 込めばいいのです。
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  1回路入りのオペアンプを2回路入りとして使うための変換基板/右側は裏表にSOPタイプのオペ アンプを取り付けるもの

オペアンプは音が悪い?
 アンプの歴史を振り返ると、真空管の時代があり、トランジスタの時代が来て、そして作動増幅という仕組み(オペア ンプの原理)の発明を経て、アポロの月着陸のおかげでこう した小さな IC パッケージの中に詰め込まれた既製品のオペアンプを使う時代が来たわけですが、オーディオ・ファイルの間では IC オペアンプは音が悪いという人がいます。オペ アンプを使わず、昔ながらに真空管で組んであったり、基板の上にトランジスタや抵抗、コンデンサーなどを並べて作る 回路を「ディスクリート(個別の、の意)」と言 いますが、ディスクリートでないとだめだといって、オペアンプが付いていたところにそのまま差し替えられるようにした数センチ四方の交換基板を 売っているところもあります。ただ、個人的な意見ですが、確かにその方が良いにしても、よく選んで使えばオペアンプ の音が明らかに悪いとまでは言えないのではないかと思います。シリコン・エッチングのパターンで出来ている IC オペアンプは、ディスクリートとは違って内部配線もシリコン材ということになるので、確かに銅線で結ぶディスクリー トの方が有利には違いないでしょうが、ハイエンドの商品にもオ ペアンプは使われていますし、ハイエンドが音がいいかどうかはともかくとして、マーク・レヴィンソンが100万を超えるようなプリアンプを出して 驚かれたときも、蓋を開けると中は IC がいくつか入ったモジュールがポンポンと並んでいるだけで、ほとんどがらんどうに近い様子だったという話もあります。

今回の実験に使った回路

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 ここでは、私が愛用している80年代のCDプレーヤーで積分型DACを積んだONKYOの名機、C-700 のアナログ基板に使われているオペアンプを取り替えてみることで音の違いを検分してみたいと思います。

 C-700 のオペアンプはアナログ基板上では三種類、ステレオで合計6個使われています。まず JRC の 082D という2回路のものが最初にサンプルホールド回路用に使われ、次に同じく JRC の NJM5534DD (1回路)がディエンファシス回路用に、最後に NJM4558DX (2回路)がラインアンプ部分に使用されています。最初の2つは MUSE を使ったりオリジナルのままにしたりでいい結果が得られますが(ディエンファシス回路は働かないときは音質に関係がなさそうですが、実 際は差し替えると音が変わります)、4558 の付いているところは色々差し替えて試してみるのに最適です。どの回路も、たとえディジタル部分であってさえ、部品というものは等しく音質に影響を与えま すが、とりわけ終段のラインアンプの部分は帰還回路として使われており、ここのオペアンプを抜いても音が出なくなる わけではないながら、音質には 大きな影響を与えます。また、この回路の一部にはバイパス・コンデンサーとして片側 440μF (220×2)の ニチコンの電解コンデンサーが使われており、これがオペアンプに勝るとも劣らず音質に関係しています。そしてそれを オリジナルのままかブラックゲートの 両極性のものにすると、オペアンプもオリジナルの 4558DX が良いバランスになりますが、例えば FK タイプのブラックゲートにしたりするとまた違ってくるわけです。今回は 470μF の FK を片側2つずつにして実験に臨みました。以下に聞いてみた感じをレポートしますが、部品単体でこういう音、ということは常に言い難いものです。どんな回路 に使うかでガラッと性質が変わるからです。くどいようですが、たとえば近くにある電解コンデンサー、フィルムコンデ ンサーひとつを換えただけで今までA のオペアンプが良かったものが、Bの方がバランス良くなったりするのです。したがってここでの評価はあくまでもここでのものでしかないことをお断 りしておきます。同じ回路上で比較しているので相対的には個々の傾向が出ているかもしれないですが、もちろん主観的 なものでしかありません。ま た、個人的にはスペックと音質が直結するとは思っていないので、スルーレイトやセトリング・タイムがどのくらい、残留雑音が何 dB というようなことはメーカーの出しているデータシートか詳しいサイトを参照してください。



音の印象(各社別)

テキサス・インスツルメ ンツ  


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OPA604 / 2604 

 バーブラウン時代に開発された、内部がすべてFET(通常はバイポーラ[トランジスタ])で構成されたオペアンプ で、1回路用が 604、2回路用が 2604 です。音質の傾向はどちらも似ているような気がしますが、このオペアンプ・シリーズのみ他のものと比べてちょっと違っているようです。帯域バランスでいう とかなり低域寄りであり、高い方の音は質は良いながら量的に少ないように感じます。どっしりとした低音に張りと圧力 感のある中域が乗っているよう に聞こえることが多く、ハイ上がりになってしまった回路でバランスを取るときに重宝します。


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OPA627AP 

 高級オーディオのマーク・レヴィンソンが使ったということで神話にすらなった FET 入力(入力部のみ FET)の有名なオペアンプで、604 同様バーブラウン時代の代表的なものです。これだけが価格的に非常に高く、1回路用しかないために、2回路用としてステレオで使うには4つ必要になってお いそれとは導入できないですが、信頼性が求められる医療機器にも使われるのだそうです。DAC の PCM1704 と同じで、パターンをレーザートリミングしているので精度が高いのだと宣伝されています。そのあたりからか「格」が 違うなどという意見もありますが、コスト・パフォーマンス を度外視すれば、スペックの良さに惑わされずに音だけ聞いた場合でも確かに優れたところはあると思います。低音は 604 同様どっしりとしており、中域の厚みもあります。バランス的には高級アンプにはめずらしくあまりハイ上がりに感じさせないもので、それでいて高域の繊細 さ、情報量の多さは 604 よりあります。その高域の表情は過度に艶がつくところがなく、かといってサラサラ、シャラシャラした傾向もなく、MUSE01 と比べるとややソリッドな、カチッとした芯を感じるときがあります。褒めたいわけでもないのですが、ひとことで言えば解像度感がありながらも奥行きも感じ る、とすることもできるかもしれません。しかしそれこそが、子音が強調されて細かな音が全部前へ拾い出されてくるようなクッキリサウ ンドを良い音の指標だ と考えるオーディオ愛好家の間では「クセのある引っ込んだ音」あるいは「バーブラウン臭」などと表現される 原因になっているのではないかと推測します。反対に独特のコクがあると賞賛する人もいることでしょう。ただ、今回は2回路変換基板上 で2個とも 627 にするとキツい音に感じました。このオペアンプは一見ちょっと引っ込んだ音に聞こえていながら、実は結構中域にエネルギーの張った、しかもちょっと硬いと ころを隠し持っているのではないでしょうか。「引っ込んだ」と「硬くてキツい」は同じことをどっちから見るかの違いであって、物腰が やわらかで頑固な紳士 同様、敵味方が分かれます。それは独特な個性ではありますが、今回使っている ブラックゲート のコンデンサーにエネルギーを強く出させる傾向があるためか、今回ここではあまり良い結果になりませんでした。つまり、いつでも品格のある音だとは言えな いということでしょう。好みでないせいか、私はこのオペアンプを最終的に自分の機器に採用したことはありません。

 末尾がAPとなっているものは標準品で、BPは選別品のため高価です。さらにプラスチック封入のボディではなく、 金属の缶の中に入れられたミリ タリー・グレードの究極 バージョンもあります。通常の DIP タイプではなく、小型で表面実装基盤用の SOP タイプもあり、熱の点では不利ながら変換用の両面基盤に裏表で 取り付けて使えば2回路用としても狭い基板上で交換可能です。また、BP の DIP だったか、一時期中国製の偽物が出回ったようですが、最近は AP に限っては値段もこなれてきたようで、変なものをつかむ危険性も少なくなっていると思います。本社機能が中国にはない大手のディストリビューターから新品 で買えば安心です。


 そしてもう一つの特徴としては、音が安定するまでに大変時間がかかるということがあります。どんな機器でもそうで すが、新品で取り付けた最初は 寝ぼけた音、それがこのオペアンプの場合は中域が張らずに高域の硬さもなく、雄大な低音とハイエンドの繊細な感じがありながら艶のない音に変わ り、それから三番目に高域が 固まってきてハイ上がりのうるさく感じる時期を経過して、やっと本来のバランスになる四段ロケットのようでした。その間、毎日長時間鳴らして数週 間かかりました。高かったからここまでがんばれた、のかもしれません。



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OPA211
 これも非常にスペックの良いバイポーラ入力の新しいオペアンプです。音質はちょっと個性があり、自分の試した回路 では中域に張り出しとエネル ギー感があって、音が前へ出てくるダイナミックな感じになりました。高域もよく出ているながらちょっとキツめな色があり、繊細で細やかというのと は方向が違うようです。低音はバランス的には出ていますが、OPA627 ほどピラミッド型ではない感じです。全体に線の細い音になり過ぎた回路ではバランスを取る際に有用です。また、ポップスやある種のジャズなどで明るい元気 な音を好む人には好まれるかもしれません。表面実装用の小型SOPタイプしかありません。1回路です。


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OPA827

 FET 入力で 627 より後発の改良型、かつ安価というものです。音は 627 ほどどっしりした低音ではではなく、帯域バランス的には若干上寄り、高域の表情は 627 より少しはっきりしているように聞こえました。中域はむしろ 627 の方が張り出しており、ときに圧力感を感じます。表面実装用の小型SOPタイプで1回路入りです。


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THS4631D

 1回路の、これもハイ・スペックなオペアンプで、SOP タイプです。エネルギッシュでキツい感じがほとんどなく、硬くもないながらややハイ上がり、それもガラスのような艶と金属的な鳴きに関係する5〜7KHz 帯域よりは上の高域がやや強調されたような音がします。結果的に繊細で、若干線が細いながらときに滑らかに感じる瞬 間もあります。回路と使い方次 第で大変有用になるオペアンプだと思います。ただ、発熱は大きく、2回路用の両面基板に 乗せたりすると大変なのではないかと思います。発振を抑え るために出力側に1000pF のスチロールコンデンサと 10Ωの抵抗を入れてアース側に落とすフィルターを追加しましたが、それでも発振していた可能性があります。回路と合わないのか、初めに発振対 策をせ ずに発熱させたためか、ノイズが出るようになってしまった個体もあり、ちょっと使いにくいところもあるようです。オーディオ帯域をはるかに超えた高周波で の特性が良いこうした最新のオペアンプは容易に発振してしまうことがありますが、この 4631 はその典型のように言われます。発振させずに上手く使うと大変良い音になるという報告もあるようですから、今回の私のケースはちゃんとした音が出てなかっ たのかもしれません。


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NE5534 / 5532

 元は80年代にシグネティクス社で開発されたもので、このテキサス・インスツルメンツ (TI) 社製のもの以外にも日本の JRC からも同じ回路のものが出ています。5534 が1回路、5532 が2回路用です。音は個々に違いがあるようで、 TI のものは JRC のものよりも高域がはっきりしていて若干カチッとした表情を持っているように感じます。帯域バランスの観点ではオペアンプ全体の分布の中で割と平均的であ り、大きなクセは感じられません。スタンダードとして今もよく使われます。たとえば手元にある ESS9018 の DAC を使ったイースタン・エレクトリックの Minimax も真空管ステージにしないように切り替えるとこのオペアンプになってました。開発者が気に入ってるのだそうです。


新日本無線(JRC)   


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NJM4558DX

 2回路入です。ミサイルで有名なレイセオン社で開発されたオペアンプ元祖のような (RC) 4558 ですが、これは新日本無線製です。末尾が DX となっているのは選別品です。 今回試したのはボディ表面の樹脂に艶のある古いタイプで、世間では「艶有り」と言われるものです。艶有りと新しい艶なしとでは土台となるシリコン ウェハーチップ(ダイ)が異なるのだそうで、5534 などでは音が違いました。この艶有り選別品についてのみコメントするならば、帯域バランス的には高域をあまり欲張らず、当たりが柔らかくて余裕のある音が します。 新しいものがみなクッキリハッキリになりがちなので、こういう性質は大変有用です。そして外見は艶有りですが、高い方には余分な艶が付きません。それで ちょっとだけ 弦にサラッとした風合いを感じることがあるものの、大変素直で繊細であり、寝ぼけた高域というのとは違って、量的にはともか く質的にはしっかりしています。結果的にやわらかい音からエッジの立った高域の輪郭まで振幅が大きく、その意味では 最高のオペアンプと言えます。時代遅れで使い道がないというのは、歴史に詳しい人のバイアスのかかった意見ではない でしょうか。自分の C-700 では、電源のバイパスコンデンサーを少なくともあるもの(具体的にはブラックゲートの両極製)にしたときにはこれが一番良いバランスに聞こえました。C- 700 にオリジナルで付いていたのがこの 4558DX 艶有りなのですが、オリジナルのバイパスコンデンサーはニチコンの MUSE(両極性ではない緑色のパッケージの旧タイプ)で、その場合も 4558 はほど良いバランスでした。いかなる場合もこれが一番、という結果になるのが怖いです。ともかく、使い方次第でこれでなければならないという場合があり、 古いながら他には代え難い個性です。傑作なのではないでしょうか。


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MUSE01
/ 03
 バーブラウン(TI) の OPA627 と並んで「高価かつ高性能」なオペアンプの代表です。スペックがどうこういうよりも、JRCが音を聞いて作ったとされる力作で、脚が無酸素銅だったりとい う構 造上の特徴もあります。01 は FET 入力、02 はバイポーラ入力ですが、今回は音の当たりがやわらか いと言われる 01 のみ比較してみました(一般に FET の方が音の出方がやさしく繊細になりやすく、
バ イポーラ・トランジスタの方がくっきりメリハリが付きやすいと言われるようです)。 価格の面で 627 とどうしても比べてしまうわけですが、こちらは2回路用であり、比較試聴する際は 627 の方を2回路用変換基盤に二つ差して臨むことになります。
 
そしてこの記事を書いた後で 01 と同じ FET 入力の一回路用である待望の 03 が出ました。01 と構造的にも同じだと思われますが、試してみるとやはり高域の出方も分解のされ方も違いが分からないほど同じ傾向の音でした。一回路、二回路と出揃ったこ とで、この高級オペアンプの切り札ともなり得る MUSE がどんな場所にでも使えるようになりました。以下の解説は 01 のみで比較していたときのものです。

 帯域バランス上では OPA627 同様あまりハイ上がりにはならず、どの帯域も特別に強調されるような感じがありません
。 しかし情報量は多く、はっきりもしています。音の重なるところでの濁りが少ないのも印象的です。この性格を一言で表現すれば「おとな しいけど高性能」といったところでしょうか。ただし上がしっかり伸びているので、同 社の 4558、5534 などよりは繊細で、若干高域にウェイトが移ったように聞こえます。 個人的な感想では知り得るオペアンプたちの間にあって群を抜いて素晴らしいです。データシートのスペックが平凡なのでこきおろす人が いますが、工作機械で はなく音楽を聞くためのものだと考えると全く気になりません。値段が高いので文句を言いたくなるのかもしれません。それと今回の回路 の終段に限っての比較 では、すでに前段に同じ 01 を使ってしまっているせいもあるのか、大変良いのですが、若干ハイに重点が移り、クールでくっきりし過ぎる傾向が出たためにオリジナルの 4558DX の方がバランスが良いような気もします。同じものばかり使うとその個性が強調されるもので、他の回路ではベストな場合が多いのですが。
 いずれにせよ、このオペアンプの一番の特徴は高域の表情の自然さかもしれません。繊細で細部をよく拾うながら、キツくなったり固 まったり、変な艶が乗ったりしないようです。
OP42 との比較では性質が異なるので甲乙つけ難いですが、42 の方が中域がやや厚く、響きがつくように感じることがあり、MUSE01 の方が高域が素直に伸びているように聞こえます。627 と比べても、これも好みは人様々なのでどちらが良いかということは言い難いですが、627 の方が弦の音が少し冷たくはっきりしているように感じるときがあり(「透明感」と表現する人もいるでしょう)、中域の張り(エネルギーの強い感じの中に ちょっと反響が付いて硬いところ)があります。コクと言う人もいるでしょう。一方今回の回路に限って言えば、MUSE01の方が弦が 固まらずに若干さらっととしているというか、シャンペンの泡のようにシュワーッと した清涼感が出やすいところがあります。一聴して自然に感じるのは MUSE01 の方ですが、OPA627 の方がオーディオ愛好家好みというのか、ハイファイなのかなと思わせるところはあります。それが最もよく現れるのは今申し上げた通りオーケストラなどで複 数のヴァイオリンが重なるところですが、その艶の出方は機器によっていつも違うところです。

 艶とは何でしょうか。通常楽器の音は基音とその何倍かの波長を持つ倍音とから成る合成音なわけですが、倍音の部分がどういう割合で 出ているかによって音 色が変わり、艶と感じる部分もその成分のあり方に左右されて出てくるわけです。そして多くの場合、我々がヴァイオリンの艶として聞 いている音は、ある特 定周波数の倍音の部分が他よりも目立っているとき、言葉を換えれば、ある音域に反響があって他の周波数成分を圧倒している場合に艶と 感じるようです。しか しこれはもしオーディオで言うならば、特定の色付けがあってある周波数のみ強調されており、その帯域で反応が悪く(容易に鳴り止まな く)なっていることを 意味します。再生機器では性能の悪さを示す指標が、楽器においては素晴らしい艶と感じる成分になるわけです。ということは、ある再生 機器で艶を感じるとい う場合、本来その楽器の音に艶があってそのように録音されており、それが正確に再生されるので艶を感じるケースと、オーディオ装置の 方に固有の色付けが あって、いつもその帯域に艶が乗ってしまっている場合とがあることになります。しかし問題は、録音現場を知らない我々としては今聞い ている音の艶がどちら なのかわからないことです。その意味で、MUSE01のさらっと分解された優しい高域の艶と、OPA627 のややカチっとしたところのあるシャープな艶との間でどちらが原音に近いのか安易に断定はできないわけです。個人的には断然 MUSE だと思いますが、要は回路との相性や好みで決めて行けば良いということでしょう。



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NJM5534DD

 1回路用です。2回路用は 5532 です。
4558 に対してこちらはシグネティクス社で開発された、これも古典的なオペアンプですが、テキサス・インスツルメンツも同じ型番を出しています。しかしこの新日 本無線の 5534 はハイ上がりにならず、硬くもならないおとなしい音で TI のものよりも個性があります。

 
今回は C-700 のディエンファシス回路 * にオリジナルで付いてきた古いダイの「艶有り」と呼ばれるタイプ(プラスチック・モールドの表面に艶がある/写真左)と、現在も売 られている新しい「艶なし」(表 面が梨地仕上げ/写真右)の両方を比べてみました。結果は艶有りの方が柔らかく、高域が強調されておらず、おとなしいながら繊細さがありました。艶なしの 方は回路によってはそちらの方が良い場合もあると思いますが、今回の実験ではわずかに高域にシャリンとした強調倍音 を感じ、少々やかましく感じま した。硬質さという点では TI の 5534 ほどではないのですが。時間が経つと違うかもしれませんが、C-700 のこの部分(3つ並んだ真ん中)は OP42 が唯一代替し得るものだったぐらいで、他はどのオペアンプに換えてもうるさくなり、結局この NJM5534DD 艶有りの方を継続使用することに決定しました。ハイスピード、などという言葉を好む人には情報量が少ないとかカマボコとか言われて嫌わ れるかもしれませ んが、決して情報量が少ないわけではなく、キラキラした音になり過ぎた回路には特効薬でしょう。高 域のオフなテキサス・インスツルメンツの OPA604/2604 を除いては 4558DX 艶有りと並んで他にないやさしい個性です。その 4558 との関連で言うなら、2回路の 5532 が 4558 の改良版にあたるようですが、5534DD 艶有りを変換基盤で2個遣いした場合との比較では、4558DX 艶有りの高域の方が若干シャープに感じました。インターネットでこれら古い艶有りを高く売っている人もいるようで、 一個売りのところをみると、どうやらギターアンプ用として人気のようです。

* 余談ですが、このディエンファシスというもの、LP時代のRIAAのイコラ イザーや、カセットテープのドルビー・ノイズリダクションのように、記録時に高域を持ち上げ、再生時には逆に小 さくするという操作を行うことで再生音の質を高めようとするエンファシス回路の復調部分のことです。エンコード (変調)側をプリエンファシス、デコード(復調)側をディエンファシスと言います。80年代にはよく行われたも のの、現在のCDではあまりお目にかかることはないということです。この操作はCDプレーヤーの内部で自動で行 われます。プリエンファシスのかかったCDはその事を示すビットが立ち、それを受けたプレーヤー部で信号が出、 その信号に反応してリレー等が働いてディエンファシスのイコライザー回路を働かせるようになっています。という ことは、エンファサイズされてない現代のほとんどのCDを再生する際にはこの部分の回路を通らないわけですか ら、音には何の影響も出ないと普通は思うところです。しかし回路にその部分がぶら下がっているだけで音は変化す るようで、この箇所のオペアンプを取り替えると明らかに音質に影響します。不思議な話です。ちなみにこの 5534というオペアンプ、他の回路でも音を比較してみたことがありますが、結果は上記と同じ傾向でした。

 末尾の DD は選別品を表し、D 一つの標準品とは音が違うのだという人がいるので確認してみると、確かに若干違いがあるようです(艶有りタイプの場合)。
最 初に手持ちのもので確認してみると、DD の方が細部はよく拾うながらおとなし目に感じます。 一方で D はややラフに聞こえます。ただし、そこがかえって艶に感じられて DD よりも好ましい場合もあるようです。回路と の相性によってその差が逆転吸収されてしまう範囲なのでしょう。ディエンファシス回路では圧倒的に DD の方が良く、落ち着きと深みがあって細部が聞こえましたが、ラインアンプの部分では組み合わせるコンデンサーとの関係で、D の方に心地よい艶と弾力を感じる場合もありました。
 しかしその後新たにNOS(新古ストック)の DD をいくつか仕入れてみたところ、そちらはしばらく慣らしてみ た後でも音が若干異なりました。ロットナンバー的には大して違いがなさそうな同じく艶 有りモールドのものなのですが(C-700に付いてきたのが 5022 で、後から入手したのが 5007)、高域が D よりおとなしいとは言えず、むしろ張り出して聞こえます。D のラフさ、もしくは艶という感触は若干少ないようにも思いますが、シャープなところがあって前述の DD と D との位置関係が逆転した印象です。つまり D の方がおとなしく感じます。ただ、これもさらにエージングが進むと変 わってくるのかもしれませんが。

ナショナル・セミコ ンダクター
  

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LME49710

 新しくて性能の良い1回路のオペアンプ。2回路用は 49720 です。クセのない音という世間の評価で期待したのですが、確かに帯域バランス的にどこかが強調されるということはありません。ただ、最近の高性能オペアン プに共通していますが、高域はかなりはっきりしています。リニア・テクノロジーの LT1028 ほどソリッドにカチッと固まる感じはなく、サラッとはしているのですが、輪郭が強く出ます。弦の艶の出方とキツさが好みではなかったので採用はしませんで したが、これがハマる回路もあることでしょう。


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LME49990

 49710 よりも後発で、このメーカーの最高スペックのように言われている1回路のオペアンプです。パッケージは基盤実装用の小型 SOP タイプしか出ていません。高性能ということで 49710 よりも鋭い音なのかと誰しも思うところですが、聞いた印象では逆で、高域にはっきり出過ぎる強調の傾向がなく、繊細でよく細部を拾うながらも自然な やわらかさすら出てきます。帯域バランスはわりとフラットに感じますが、ピラミッド型というようなどっしりしたもの ではなく、低音がちょっと軽い 感じもあります。スペック的には TI の OPA627 やリニア・テクノロジーの LT1028 あたりと比べられるところでしょうが、627 との比較では低域の量感は少なく、中域の張りも少なくて、高域の繊細さと情報量では甲乙つけ難いながら音色が大変違います。627 は一見ちょっと引っ込んだようでいてよく分解された高域を持っており、弦ではやや艶が抑えられているかのような表情 がありつつ芯にカチっとした硬質なキツさも若干感じられるという独特のバランスをしています。一方で 49990 はヴァイオリンの艶を現す高域の倍音部分(聴感的には8KHz 前後でしょうか)では、案外気持ちの良い艶が加わるように思います。しかし反響し過ぎてその帯域が固まったような痛い艶になるのではなく自然に聞こえるの で、オペアンプ固有の艶なのかソースの艶なのかがよくわかりません。合奏のフォルテではジャリッとした濁りが少なく てきれいです。単に量的に出てるか出てないかという意味では 627 よりも高域が若干張り出しているような聞こえ方なのですが、はっきりしてキツいという意味ではむしろ 627 より強いとは言えません。LT1028 との比較では、明らかに 49990 の方が高域の硬い艶が少ないように感じます。THS4631D とでは、49990 の方が量的にはハイ上がりの傾向が少なく、透明感(この表現は曖昧ですが)がある一方、
4631 の方が高い方の高域が張り出して いる分繊細に感じます(私にはうるさく聞こえます)。
 ここで一つ補足をすると、このときの C-700 の回路上ではなく、日立の HDA-001 の DAコンバータで試したところ、49990 は高域が繊細ながらも、バランス的にはハイ上がりにならない、おとなしい音になることがあるのを確認しました。627より高域が張り出していると前に書き ましたが、回路によって逆転することもあるようです。しかし一般にやわらかくておとなしいキャラクターが出やすいの であれば、むしろ使い道は増えると思います。

 このオペアンプは各社の高性能なものの中では OPA627(最終的には私の好みではありませんでした) や MUSE、OP42 などと並んでバランスが良く、魅力的でした。それぞれに個性がありますので、回路によって使い分けたり、組み合わせたりするといいと 思います。今回 C-700 のアナログ基盤で試した結果としては、最終段となる2回路のラインアンプの部分で1回路アンプを2回路にする DIP 変換基盤を用い、横に二つ並べてソケットに差せるようにしておいて、入力側に NJM5534D 艶有りや OP42、出力側にLME49990 にしたときに
癖を目立たせな い、 あるいはものは言いようですが、個性を引き立て合う組 み合わせになりまし た。入力側と出力側のオペアンプでは、出力側の方がダイレクトにそのオペアン プの個性を出してくる傾向があるようです。回路上ではそちらの方がゲインを持ってもいます。こうして2回路用の前後ろで別のオペアンプを使うとい うのは電気特性的な相互の相性が問 題になりそうですが、結果的に音に満足できれば良いのだと思います。
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  発振を抑えるためにオペアンプ出力とGNDの間に1000pF前後のコンデンサーと10Ωの抵抗 を入 れて高周波を逃がすフィルター/ソケットの足に取り付けることで入れたり外したりが簡単にできるように工作 してみたもの(コンデンサーの銘柄違いで左からフィリップスPS、本国のシーメンス、富士通シーメンス、 シーメンスのケース入りKS)

 ただしこの 49990 も高周波での発振については気をつける必要があるかもしれません。小型のものだけに触れなくなるほど熱くなります。THS4631D 同様 1000pF 前後のコンデンサと 10Ωの抵抗から成るフィルターを追加しましたが、高周波側の発振が可聴帯域まで影響し、ツイーターからまさに小鳥のさえずりのようなチュイーン というノイズが聞こえるときもあ りました。裏表基板のも含めて別の固体ではフィルターなしでうまく動作する場合もあるのでなんとも言えないのですが、ハンダ付けが下 手だったでしょうか。
 また、そうした発振対策で使う素子も音にダイレクトに影 響しますので、さらに変数が増える厄介さがあります。コンデンサーにはドイツ本 国製のシーメンスのスチロールと、同じくシーメンスながらオレンジの四角いプラスチックケースにモールドされた KS の 390pF、富士通でライセンス生産した日本製のシーメンス、フィリップスの PS などを使ってみました が、音色ははっきり変わりました。オペアンプの性格を覆すほどに違ってしまうと言っていいでしょう。

 さて、そのコンデンサーですが、こういう用途では一般的に積層セラミックやマイカ・コンデンサーが使われるケース が多いと思います。スチロール・コンデ ンサーは現在も安定的に手に入るのは Xicon ぐらいで、今回使用したのは手元にあった古いものなので参考にはならないかもしれませんが、個人的な意見としてはセラミックはうるさくなり、(シルバー ド)マイカはやや硬質なところがあって選択肢の上位には入れていません。今回使った中では最も高い方がはっきりした 感じになるのが富士通シーメンス、次にすっきり延びていながらややおとなしいのが本国のシーメンスで、両者は使う回 路の相性次第で甲乙つけられません。KS はハイエンドの延びはほどほどでややカッチリした艶が乗るため、ときにこれでなければいけないケースがあるという感じです。 フィリップスは高い方はほどほどでハイ上がり傾向にはなりにくいですが、硬質ではない艶を感じるときがあり、場合に よってはそれがうるさくなったり反対に色っぽく感じたりします。ついでに Xicon はと言えば、高域がはっきりしているという意味では富士通シーメンスに劣らないかそれ以上に前に出てくる感じなのですが、若干ガラス質の艶が乗るようで、 音の重なるものを長時間聞くと耳が疲れる傾向があるようです。
 以上は製造中止になったスチロール・コンデンサーで すが、スチロールに変わって今主流になっている各種フィルムコンデンサーも後日色々試してみました。シーメンスの積 層フィルム、WIMA、ERO、Evox Rifa、国産のものなどの、ポリプロピレンとポリエステルです。これらフィルム・コンデンサーについてはポリエステルのものの方がバランスが良い場合が 多く、ポリプロピレンはそれよりも一桁性能がいいにもかかわらず、ハイ上がりのものもオフなものもともに、どこかの 帯域にちょっと強調を感じることが多いようです(スピーカーのネットワーク用などの箔巻きの大きいものの中には例外 もあります)。ERO の KP1830 は高域がオフでおとなしい感じ(エージングで多少減ります)のものが多いながら、容量によって中域のどこかにちょっと反響を感じる場合があります。 Evox Rifa は高い方が比較的延びていますが、やはりちょっと耳につく部分を感じます。ポリプロピレンとポリエステルの両方がラインナップされている WIMA もやはり、ポリエステルの MKS の方がバランスがとれているように聞こえます。いずれにしてもこれらポリ○○フィルム系はスチロールと比べると一段クオリティが落ちます。 バランスは個々に違いがあるものの、どこかくぐもっていながら固まってキツいところがあるのです。対してスチロー ル・コンデンサーは高域が素直に延びきって細かい音を拾うものの、反響してやかましくなる傾向が少ないと思います。 素子でこれほど音が変わるわけですから、オベアンプだけとりあげてもあまり意味がないのかもしれません。抵抗につい ても手元にあった同じ Dale の無誘導巻線抵抗ながら、厳密に言えば10Ωと11Ωでは音が違いました。1Ωばかりは設計上どうでもいいはずですが、値が問題なのではなく、同じ銘柄で も抵抗値が異 なると構造などの違いから音色が変わるのでしょう。
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リニア・テクノロ ジー  


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LT1028
 リニア・テクノロジー社の1回路高性能オペアンプ。ナショナル・セミコンダクターの LME49710 同様、ハイ・スペックのオペアンプらしい、はっきりとした輪郭の音がします。ちょっと硬めで、金属的とまでは言わないものの固体を思わせる輝きのある高音 に特徴があると思います。回路によってはこれが良いバランスに聞こえる場合もあると思いますが、今回の回路では ちょっと無機的に思われたので使い ませんでした。ただ、最初のうちは結構やわらかい音がしていて段々にそうなったので、もっと時間をかけるとどうなるかはわかりません。


アナログ・デバイセズ
  

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OP275

 2回路入りのオペアンプです。バランスがいいです。過度に高域が強調されるような傾向はあり ませんし、帯域バランスも下の方からしっかりしていて、安心して使えます。押しが強いわけではないながら中域も厚く、高域にキラキラするような色も乗りま せんが、固まった艶を感じさせない分、回路や部品との組み合わせ次第ではちょっとコクのない弦の音になる場合もある ようです。OP42 や NJM5534DD 艶有りと比べてハイがすっきり延びたように感じるときがありますが、反対にハイ落ちに聞こえる回路もあります。素直でとりたてて強い個性はないだけに、私 はどこにでもまずこれを使ってみています。今回も、2回路入りのオペアンプでオリジナルの NJM4558DX 艶有りに置き換え得るのはこの OP275 だけでした。また、昔のマッキントッシュのカーステレオの終段にも使われており、 OPA2604の I/V 変換部と相まって艶と厚みのあるマッキンらしい音を演出していたのが印象的でした。


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OP42

 1回路入りの高性能オペアンプです。出てきたのは結構昔で、あまり話題にはされてないようですが、スルーレイト等 今なおスペックは最高の部類です。 NaimAudio の初代の旗艦 CD プレーヤーである CDS にも使われており、いい味を出していました。個人的には OPA627 より気に入っています。OP275 と比較するとよりハイファイな音ですが、やわらかさと独特の雰囲気があり、回路によって違う音に聞こえる二面性というのか、柔軟性というのか、ちょっと不 思議な性質 を持っています。したがって明確にこんな音、という表現が難しいのですが、ひとつ言えるのはやはりこれ見よがしな高 域強調には縁がないということです。 中域にやや反響が付くような気がするときもありますが、他の素子との組み合わせによります。OPA627 と比べると、もう少しおとなしい表情でコクがあり、いかにも高分解能のハイエンドだぞ、というはりきった音になりません。つまり
こ ちらの方がナチュラルに感じるのです。しか し細かい音は OP275 よりも拾っており、情報量という点では OP627 に負けているとは思えません。ときに回路によっては高域が細くなって輪郭が強調される場合もありましたが、たいていは逆にマイルドな印象を与えます。 TDA1541を使ったマランツの DA コンバータに入れてみて良い結果を得たこともあります。今回の回路では、入力 側に OPA627、出力側にこの OP42 を入れると相互に凸が 噛み合い、ちょっと太めで中域のエネルギー感があるながら、やかましくならないなかなかのバランスになりました。ま た、入力側 に OP42、出力側にLME49990 を持ってくるとそれよりは音が前に出ますが、当 座の組み合 わせの中ではベストと言えるものになり、自然な艶が心地良いながら聞きやすく、見通しの良い音になりました。


組み合わせによる印象  
 C-700 で試す人もいないでしょうし、2回路用の変換基板上で別々の銘柄を使う人も少ないでしょうが、入力側→出力側の組み合わせで最終的に良かったのは下記の通 りでした。赤色が とくに良かった組み合わせです。その赤の7つに関しては、曲や CD によって評価が逆転することがあると思います。さらにそのうちのいくつかは本当にどれを採用するか悩みました。

 入力側→出力側
OPA627→OP42:
 ややオフなバランスながら、細部もほどよく出ている。エネ ルギー感もある。

NJM5534D
D艶 有り→
OP42:
 
上 記同様あまり前へ出てくる音ではなく輝かしさもないながら、より硬さが少ない。ただし高音弦が地味でわくわ くするような透明感はない(5534 はロットナンバー 5022)。

NJM5534DD艶 有り(5007)→OP42:
  上記と同じ組み合わせで、5534DD のロットナンバー違いを手に入れたので試してみた。こちらの方がハイがはっきりした個体だったからである。結果はオリジナルの 4558DX にかなり肉薄する印象。4558 よりはそれでもダイナミックさと高い方の倍音の強弱での音色差が少ない感じはする。その分き れいで聞きやすいところはある。

OP42
NJM5534DD艶 有り(5007):
 上記と前後を入れ替えたもので、よく似た傾向なのでよく聞かな いと違いを言うのが難しいが、響きの余裕が若干少ないかなという 印象。

NJM5534D/DD 艶有り→LME49990
: 

 普及品の末尾 D については、発振防止のコンデンサー(49990側)をフィリップスにしたとき、若干
き れいな艶がつくような気はするもののそこが魅力的で、
刺 激性は少ないながら細部も拾う状態になった。OP42との組み合わせとバ ランス的には近いようだが、やや高域に色がある(エネルギーが強いという意味ではむしろ逆)。 このフィリップスの ま まで選別品の 5534DD(ロッ トナンバー 5022)に交換すると艶が後退し、細部は同等以上に出て いる分やや細身になる感じがする。
 そのままコ ンデンサーを一番色づけの少ない富 士通シーメンスに換えるともう少し高域が素直になり、繊細さと情報量がありながらしなや かさも感じ られる良いバランスになった。OP42→LME49990 より若干線の細さ がある。一方そのシーメンスに普及品の 5534D の組み合わせだとわずかに高域にラフさと強調が感じ られる。シー メンスの方がハイが延びているためだろうと思う。
 ロットナンバー 5007 の選別品 DD にして、コンデンサーを富士通シーメンスにしたときはかなり満足できる状態になる。そ れでも発振防止回路なしの NJM4558DX よりは生々しさが少ない。コンデン サーによってこれだけヴェールをかぶった感じと色づけが出るのだから、49990 発振の危険性を冒していっそコンデンサーも抵抗もなしにしてしまえ、とやってみると、生々しさの点では最も良くなるものの、今度は若干元気になり過ぎてキ ツさも出てくるようだ。
 
OPA604→LME49990:  
 上記の組み合わせに似たバランスながら中域に厚みと力がある。高域も 5534 とより前へ出る。


OPA627→LME49990: 
 604 の太さがより繊細に変わり、フォルテできついときもあるが、室内楽などではかえってコントラストがついてリアルに聞こえることも。個人的にはちょっと耳が 痛 い瞬間があると言いたい。発振防止のコンデンサーを フィリップスにすると硬質さが少し減ったが賑やかさが出た。

OP42
→LME49990:  
 627 とのカップリングより自然でバランスが良い。
暫定で今回 試 みた組み合わせ型の中のベストか。49990 の個性か、独特のあでやかさがある。順序を逆にした LME49990→OP42 も悪くないが、それより高域がのびやか。それでいて音の重なりが濁らない。赤で書いた1回路2種の組み合わせの中では最も高い方の鮮やかさがある。

OP42
→THS4631D :  
 フィリップスのコンデンサーとではハイ上がり傾向が抑えられ、本来の繊細さとやわらかさが前に出て良いのだ が、一度発熱させてし まったせいか、今回はフィルターを追加してもノイズが出てしまった。素子の値や発振対策の回路を変えてみて安定させられれば良いのだが。

OP42→OPA827 :
 細部を聞かせるながらややおとなしいバランスの OP42 の個性と、627 より中域のはっきりした主張が少なく、高域があっさりしている 827 の個性が合わさって、ほどよいバランスになった。LME49990 との組み合わせの方が高い方の細かいところを若干多く拾うようにも思うが、好みの範囲かもしれない。


 2回路入の単品、 もしくは1回路オペアンプを同じ銘柄2つで良かった のは:  
 ここからは製品ごとに行った本文の説明と重複しますが、発振対策のコンデンサーのことにも触れます。

NJM4558DX艶有り:   
 回路に元々ついていたもの。自然でバランスがとれている。中域にやや ライブに響く感じと音量感がありながらもうるさ くならず、倍音が豊かなのか、音色の変化と表情が音の強弱に従ってよく出る。オンとオフのコントラストが付くのであ る。色々聞いた結果結局元のま まがいいということになると今までの努力はいったい何だったのだろうということになるのだが、正直なところ案外この 古いオペアンプが一番いいのかもしれない。4558 と言えば IC オペアンプの歴史がここから始まったというぐらい古典的なもの、ということは、音質の面では別段たいした進歩はないということか。それとも、個々のスペッ クを良くすることで引き換えに失うものがあるのか。

MUSE01 :
 NJM4558 よりも高域が真っすぐ伸び、繊細でくっきりとして聞こえる。合奏の音の重なりが分解して聞こえ、濁らないのが最大の魅力か。どの帯域にも余分な強調やたる みがなく、大変素晴らしいが、今回の回路ではサンプルホールド回路にすでに2個使ってしまっているからか、 若干 線が細くてエネルギーバランスがハイに寄った感じに聞こえる。澄み切っているので魅力的だが、ソースを選び、もう少しやわらかさが欲しいという場面も出て くる。

OP275: 
 2回路入りで唯一オリジナルの 4558 とそのまま交換可能なバランスを持っている。4558 の方がほんの少し中低域に厚みがあり、コントラストが出るようにも聞こえる。また、下記 OP42 同士の組み合わせよりわずかに高域にサラッとした色があるように感じられ、その分ほんの少しハイに重心が移ったかなという印象。


OP42
OP42:  
 発振対策も必要なく、オリジナルの 4558 同様にバランスが良い。OP275よりさらに 4558
のバランスに近く、違いを説明するのは難しいのだが、4558 より中低域が厚いのか、より太くて穏やかな当たりに感じながら、高い方の細部はほぼ同等に出ているという感じ。また、OP275 の方が高域寄りな感じだと上に書いたが、細かい音は 275 以上に拾っているようにも聞こ え、分解能が上回るのかもしれないと思わせる。この三者を評するのは体調が良くないと難しい感じ。さ らに、OP42→LME49990と比べても同等の聞きやすさががある。中 高域のバランスという観点 では中域側に強調点が移ってやや地味な感じもするが、これはこれで悪くない。OPA627 同士の組み合わせより明らかにキツさが減る。

LME49990→LME49990: 
 周囲の素子を少しおとなしいものにすると良い。発振防止のコンデンサーは
、 シーメンスにしたときは艶の成分が やや強く感じる瞬間があった。フィリップスの PS に変えるとハイはやや引っ込む ものの、それが最 も良かった。その際 OPA627→LME49990 に多少バランスが似るが、ソリッドさは減る感じがす る。合奏ではやや艶消し気味で、良く言えばシルキーなきれいさを感じる。発振対策を全くしない素 の状態はリアルで良いのだが、 やはり心配が残る。これだけ熱くなるの が正常の範囲なのかどうか、本来はちゃんと回路を当たるべきだろう。両 面基板に裏表に取り付 けた2回路用は裏側に放熱器は取り付けられない。横に2個並べて使う変換基板なら可能だが。でも音はやっぱりちょっと元気か。

NJM5534D/DD 艶有り→NJM5534D/DD 艶有り:
 通常品の D については、非常におとなしいが、そのマイルドさが生楽器っぽい。
 やや高域がシャープに聞こえるロット ナンバー 5007 の選別品 DDについては、D よりも表情がはっきりしてなかなか魅力的だが、4558DX と比べると生々しさと音色幅が若干少なく聞こえる。


 結局最終的に残ったのは元々 C-700 についていた NJM4558DX 艶有りと、発振防止のコンデンサーにシーメンスのスチロールを使った OP42→LME49990 の2つ、もしくはそれに加えて 5534DD→LME49990の3つと言っていいかもしれません。4558 はフォルテでうるさくならず、かといって細かい音も良く聞こえます。ただ案外サラッとした風合いで魅力的な色が感じられるという風ではありません。対して
OP42→LME49990 の方は一聴してきれいな音だなと感じさせ、オーボエにもヴァイオリンにも濡れた艶のような大変魅力的な響きが加わります。オーディオ装置の音は常に原音か ら離れているので、それが 4558 と比べて加わっている響きなのか元々なのかは断じがたく、ただそれを聞きたいという誘惑にかられます。弱音から大勢の合奏に入るところなど、コントラスト がついて大変よく鳴り渡り、ある意味でリアルな感じになるので、これこそ解像度が高いと一瞬思うのですが、全体に音 量が大きく感じる上にフォルテで 4558 よりやかましく感じるのも事実です。その間誰かとの会話は聞き取り難い感じです。ということはこっちの方が分離が悪いのか...  どうもどっちを採用していいのやら悩みます。5534DD→LME49990 はその中間というところでしょうか。時代錯誤的な意見ですが、最もハイファイなのはやはり 4558 かな(結局実験の後は、正直 4558 を差したままで聞くことが多いです)。
 以上、なかなか決め手に欠ける決選投票でしたが、これでこの終段のラインアンプの部分に MUSE01を持ってきて、元々 082D がはまっていたサンプルホールド回路の方で逆に今回の取り替えごっこをやったら、おそらく当分の間収拾のつかない事態になることでしょう(余談ですが、 4558をここに持ってくると発振するようです)。


発振防止について   
 発振 (oscillation) というのは、大雑把に言えば帰還(フィードバック)部分を持つ回路で、環ってきた信号が元の信号と干渉し合ってハウリングのようになることを言いま す。ステージでマイクと拡声用のスピーカーが反響してキーンという音を立てる、あれと原理は同じです。オペアンプに は帰還回路が用いられていますので、オペアンプの種類と回路設計とが合わないと発振を 起こすことがありま す。とくにオーディオ用途を超える高い周波数まで扱えるようなオペアンプ(そういうものの中に オーディオ帯域でも高性能なものがあったりします)を使う場合、そういう高周波での能力を想定していないオーディオ 回路で発振することが多いようです。したがって大抵は耳に聞こえない高い周波数で起きていてオシロスコープで確認で きるだけですが、その 発振に影響されてスピー カーからチーンとかチュイーンとかいうようなラジオの同期外れみたいな可聴音が漏れてくる場合もあります。また、そ の機器をつないだ先のアンプのボリュームを回すとボソボソというノイズが出たり、電源のミューティング・リ レーがつながった瞬間にバツッというノイズが出たりする場合も発振の可能性があります。そしてオペアンプが発 振すると本体が異常に発熱する現象もありますので気をつける必要があります。SOP (SOIPともいう)タイプの小型のオペアンプは元来手で触れられないほどの熱さになるものですが、発振しているともっと熱くなります。発熱のせいで本体 が壊 れたり、周囲の電解コンデンサーなどを焼いて壊したり、音をなまらせることもあります。音 が正常に出ていなが ら微妙に発振している場合もあるので厄介なのですが。
  そんな発振を止める対策は何通りかあります。本来は発振 の原因を突き止めて個別的な対策を施すわけですが、原因究明には回路の知識があることに加えてそのオペアンプの特性 を把握している必要がありますので、データシートを読み切れてないような素人(私のことです)にはなかなか難しいこ とです。

 一般的には入力側や出力側に抵抗を入れるという方法がまずありますが、回路に直列に素子が入るので、オペアンプを 交換するのと変わらないほど音質に影響が出ます。同様に入力側に抵抗とコンデンサー(対アース)から成るL字型の ローパス・フィルターを組むことも一般的なようですが、これも直列に抵抗が入ることは同じです。

 次に位相補償用の数pFから数百pFのコンデンサーを出力と−入力の間
に 入れるという対策があります。これは還ってくる信号の位相をずらすことで反響同期しないよう にするものです。発振という現象は、出力側から入力側へ還した波形の位相が合い、その大きさが近いときに生じます。 仮に信号波形をグラフ上の斜め線として表したと考えたとき、二本の斜め線(入力と出力)を重ねようと思えば、横軸 (位相)を動かしても、縦軸(信号の大きさ)を動かしても重ねることができると思います。その二つが重なったときに 発振が起こると考えれば、位相と信号の大きさの二つのファクターが関係していることが分かると思います。そして、位相補償用の小さなコンデンサーを帰還 ループに加えることで位相をずらしてあげれば、発振を止めることができるのです。ただし、今回適当に試してみたところではあまりうま く改善できませんでし た。ちゃんと計算をしてオシロで確認しながら事に当たる必要があるでしょう。

 そして回路の使い方によらず最もよく行われる対策が、オペアンプの出力とアース(GND)の間にフィルターを入れ るというも のです。これをベル研究所の研究員、オットー・ツォーベルに因んで
ツォー ベル・フィルタと呼ぶ人がいますが、英 語圏で Zobel filterと検索するとその名前のフィルタとして説明されるものはほとんど、スピーカーのネットワークに使われるインピーダンス上昇抑制フィルターのこ とを差しているようでした。したがってこの用途での名前が正しいかどうかは私にはわかりません。
 さて、そのフィルターの内訳は数百pFから0.1μFぐらいまでのコンデンサーと、それと直列につなぐ10Ω前後 の抵抗 ですが(順序は理論上関係ありません)、コンデンサーはその値にしたがって低音を通さない=ローカット(高音を 通す=ハイパス)特性がありますので、発振している周波数を選択的にアースの方へバイパスして逃がしてやることで発 振全体を抑える効果を持ちます。発振はオーディオ帯域よりも上の方で起きているので、その帯域全体のゲインをフィル ターで落としてしまうという考え方です。そして2素子から成るこのフィルター、本来なら発振している周波数 を突き止めてその値に合った大きさのコンデンサー
を入れるべきです が、大雑把 に入れてみて様子を見るという方法でも構わないようです。ただ、今回は定番である 0.1μF にするとかえって発振させてしまうということがあったので、手元にあった 390〜1000pF のスチロールコンデンサーを使いました。人によってはどの周波数から落とすか(コンデンサーの値でカットオフ周波数が決まる)によって音が変わるので、な るべく最小限のコンデンサーの値を選んで、発振している周波数近くになってから落とすべきだと言う人もいますが、私 の経験では、コンデンサーや抵抗の素子の銘柄による音質の違いの方が、値の大きさによる違いよりもはるかに大きいよ うな気がしました。
 つなぐ位置ですが、オペアンプの出力側は1回路入りのものだと6番ピン、2回路入りのオペアンプだと7番ピンにな ります。その先にコンデンサーと抵抗を直列につないで反対の端をアースに落とすわけです。アース側はシャーシに落と しても構いませんが、配線が長くなるとまた別の発振の原因になりますので、最短を狙うならやはりオペアンプの足に落 とすということになるかと思います。適用される回路によってピンの役割は色々あり得ますから GND 側につながっているところを探すべきですが、回路図を見ると
今回は3 番と5番ピンがアースとして使われていたので3番につなぎました。シャーシなり基板の GND の部分なりと各ピンの足の間を順番にテスターであたって抵抗0のピンを探してもいいでしょう。回路基板から 起こす場合 は専用のパターンを作っておいて、コンデンサが嵌るそれ用の場所を作っておくという場合もあります。



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