自作 のシステム 

        
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   せっかくチークの突き板で箱を仕上げてあるのに、サランネットのついたドアを閉めると 作り付けのキャビットの中に隠れてしまう。しかしこうしておけばデザインの揃わないオーディオ装置もテレビと一緒に姿を見な いで済む。マニアなら壁からの距離がどうとか言いそうだが。

  

 記事では色々なスピーカー・システムを取り上げてき ましたが、わが家のスピーカーは半分自作です。 ユニットやネットワー クを何度も取り替えて今の形になりました。手前味噌ながら少し紹介させていただきます。

 ユニット遍歴については割愛しますが、フォステクスのリボンやハイル・ドライバーなど、色々と試しました。そうした中で、今ま で聞いて音色が気に入ったユニットはあまり多くありません。ウーファー/スコーカー用途では BBCモニターの
LS3/5aに 使われた KEF の B110 と、インフィニティのインフィニテシマルに使われた5インチポリプロピレンのユニット、902−4962(733TNG)が良く、ツイーターではハーベ ス・モニター HL に使われているフランス製の Audax HD12 と、BBC モニターLS5/8(及 びLS5/9)用の HD13 がドーム型としてはきれいな音色でした。KEF の T27もややオフになりがちながら悪くありません。そしてインフィニティのリボン型のツイーターである EMIT が次元の違う音色で圧倒的にリアルです。似たようなドームやリボンのユニットが世間には山ほどある中で、とても全部は聞けないながら知り得る範囲ではそれ が良かったということです。そしてその結果を踏まえて、ここでは以下に述べるようなユ ニットの組み合わせで気に入った音を追求してみました。



 キャビネットは昔セレッション・ディットン66のサランネットが手に入ったので、ネットは結局使わなかったもののそれに合わせ て
同じような形のチーク突き板仕様 のものを業者に作ってもらいました。ディットンのものより奥行きが深く、スコーカーのバックキャビティと補強用の連結角材等を差し引くと 64.5リットルほどになります。前後のバッフル3センチ厚の「アピトン」という重く硬い東 南アジア系の合板で、側板と天板・底板は2センチ厚の合板に弾性吸収素材のソルボセインを内側から張り付け、その上から1 センチ厚の別の合木 ねじサンドイッチにしてき止めを施してあ ります


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              KEF B139
 裏 面には通常の磁気回路

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      KEF BD139 中央部のリングはドローン・コーンの金属の重り 

(スーパー)ウーファー  

 低音ユニットは昔キットで売っていたKEFのB139という楕円のものです。
振 動板が平面の形をしています が、断面が三角になる変形円錐型の発泡スチロール
(通 常ならコーン紙がある位置と前面の平面振動板の間に詰まっている)で できており、表面にアルミ系のメタルシートが張ってあります。このユニットはKEFカンタータや英国の フェログラフをはじめ、高級機でお馴染みのLinnのアイソバリクDMSなど、当時は多くのシステムに使われました。87dB ほどの能率で m0(振動板質量)もさほど軽くなく、反応の速いものではありません。それに同 じユニットから磁気回路を外し重 りを取り付けた B D139というド ローン・コーンを使ってバスレフ動作させています。このド ローン・コーンはKEF104aBで使われたものです。以前は 手に入らなかったため、同 じウーファー振 動板表面に銅の薄い板をブチル系の 両面接着テープで取り付けチュー ニング周波数を調整して使っ ていましたが、後に eBay でオ リジナルを手に入れました。fb(チュー ニング周波数)は低く、35Hz ぐらいからレスポンスがあります。

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Linn Isobarik DMS 1973  ウー ファーユニットはもう一つ奥にもあり、表面のユニットの背圧を反射させないように同相で動かしている。背圧を渦巻きキャビ ネットで吸収するB&Wのノーチラスとはまた違ったアプロー チで面白い。

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                            KEF B110


ウーファー/スコーカー


 低中域はLS3/5aやカンタータ、LinnアイソバリクDMSに使われたKEFの名器B110で、容量を正確に計算した密閉 のバックキャビティによっ てウーファー側と遮断しています。このユニット以外に同じフレームに入ったロジャースのポリプロピレンのユニットR25も試した のですが、自分の使い方ではベクストレンのKEFの方が落ち着いたフラットな音 になりました。ベクストレンは音色の問題でPVA のダンプ剤が表面に手塗りしてあり、4KHz 前後から上が自然に減衰しているため、ハイカット・フィルターなしでも使 えます。高域は分割振動していますので本来は使いたくないところですが、周波数特性に凹凸あ るものの嫌なクセがないので、このユニットに限っては案外そのままで行けました。BBC のモニターを含めて大抵の英国製システムでは複雑な補正回路を入れており
私 も6dB/oct や 12dB/oct の色々なネットワーク作っ てはみたのですが家 庭用で f 特が平坦である必 要もなく、コイルによる音の色付けの方を嫌ってあえて直結にしています。低 音側もLS3/5a+専用スーパーウーファーの組み合わせのようロー カット・フィルター組まず、B139 のウーファーだけに大 きなコイル大容量のコンデンサを連ねて60Hz から上をカットしてつなげていますので、 B110に ついては何の回路も通らずにダイレクトにアンプとつながった 状態です。

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          Super Woofer Filter / Intertechnik 18mH, Black Gate 400uF

スーパー・ウーファーのネットワーク


 前後しますが、B139のウーファー軽 い振動板による大口径のタイプではないため、本来反応の速いものではないと思 います。そのため、なるべく重低音の補強用として低い周波数のみ使っています。したがってネットワーク素子 は必然的に大きなものにならざるを得ず、コイルは
イ ンターテックのコロバー・コア入り18mH
コンデンサーは
100uF の無極性ブラックゲートを 片側4つで12dB/oct のフィルターを組んでいます。ウーファーの音色は大 切ですが、ここまでクロスオーバーを下げてくると倍音成分はほとんど含まれず、圧迫感に影響するのみという感じ になりますので、ダンピングファクターはあまり気にしていません。ドラムの切 れを重視する人には向かない設計かもしれませんが、クラシックでの 重低音はパイプオルガンコ ントラバス、たまに大太鼓といったと ころですので、体を包 み込むような感覚が出せれば成功です。

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schematic diagram これ以上シンプルにはできないネットワーク。ユニットの素性が良いためにできることだろう。特性は問題ではない。

 18mH400uF というフィルターは教科書通りの12dB/oct ではありません。通常の計算式では6dB/oct で各々計算しておいた素子の値 をそれぞれコイル側を大きい方 へ、コンデンサー側を 小さい方へルー ト21/2 ほどずらしてピー クで 共振しないようにして過 渡特性を改善して います。しかし良質なコイルで あまり大 きなものが手に入らず、音に色 づけのある EI の鉄心ト ランスのようなものは避けた かったので、18mH 以 上にはできませんでした。そこ でずらす方を反対にしてコイル を小さく、コンデンサーを大き くする変 則の回 路を用いました。こうするとイ ンピーダンスが 一定にならず、スピーカー・ユ ニットとの兼ね合いではその値 が小さくなり 過ぎてアンプに負荷がかかる場 合がありますの で要 注意ですが、今回は70Hz がつらいながら400uF で 何とか作動しました組 み合わせる別 の小型スピーカーを想定してス イッチ設 け300 や200にもできるように製作 しました。400uF の ときは60Hz でー1.5dB です。遮断特性 のζ値は0.6で、計 算上36Hz前 後で+0.5dBほど盛り上がっ て42Hzで 0に 戻り、ー3dB のポイントは72Hz 前後となります。そしてそ こから上 は12dB/oct のスロープで落ちて行きます。ζ値が0.7を下回るとフィルターの肩が持ち上がってきて過渡応答が悪くなりますが、元来バスレフ動作自体がダ だダクトの共振 なわけですから、ある程度は容 認しますしm
が て


    
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        Impedance Response

 
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     Infinity EMIT, Audax HD12, KEF B110

ツイーター


 
ツ イーターはハーベス・モニ ターHLに使われているオーダックス (Audax)HD12です。ただし当時ユニットのみは手に入れられなかったので、フィリップスの同じ1インチの磁気回路に振動板のみオーダックスのを取 り付けました。したがってネジ穴を4つから3つにする加工が必要でした。マグネットが違うのですから音も違うはずですが、その後手に 入れたオリジナルと比 べても遜色のない音色で鳴っています。磁気回路に元々付いていたフィリップスの振動板は同じシルクでも全然違う音色だったのが面白い ですが、紙ボビンに目 の積んだ黒い生地のドームのフィリップスに対し、オーダックスの方はアルミボビンで、ドームは向こうが透けて見えるほど薄い織地に透 明なダンプ剤が塗り付 けてある構造です。

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                      Audax HD-12

ツイーターのネットワーク


 このドームツイータに使うフィルターは単純6dB/oct にして、独 ムンドルフのシルバー/オイル・タイプ1uF 一個です。音圧は Daleの無誘導メタルクラッ抵抗 NH-25の9.1Ω一個をスピーカー側に直列に配して調整しました。ユニットの実 測値6Ωに対しての減衰値はー 4dB、88〜90dB/W・mほどの能率のユニットの音圧を下げます。このときのコンデンサーの カットオフは10,530Hz です。素子の値はすべて耳 で聞いて決定しました。

     
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Dividing Network / Dale NH-25, Mundorf Silver/Oil
 
 デールの25Wメタルクラッド抵抗は割高 ですが、知り得る限りでは最もディ テールが出てやかましくなりません。同社の巻線抵抗や以前
有 名だったスフェルニウスよりも気に入っています。

 ムンドルフのシルバー/オイルのコンデンサーも高価ですが、高域の情報量が多くて細かな音をよく拾うにもかかわらず、弦に独特の滑 らかさが感じられま す。色と言っていいのかは微妙なところですが、メーカーは「試聴によって決めたリキッドなテクスチュア」と言っているようで、褒めれ ばシルキーとでも言い 得る種類の、高周波の気持ち良い持続音が感じられます。気に入ってリファレンスとしているインターテクニークの錫箔 KPSN は損失のタンジェント・デルタ値が一桁良くてリアルなのですが、それよりも雰囲気があるのです。

スーパー・ツイーター


 さらにスーパーツイーターとしてインフィニティのEMITを追加しています。このユニットは振動板がドームとは比べ物にならないほ ど軽く、コンデンサー 型同様の大変素晴らしい性能を持っています。音にならないハッというような空気感と緊張感を伝えてくれるので、高域ユニットとしては 他に代えがたいもので す。本来ならドームツイーターを外してB110と直につなげる方が特性は良くなるのかもしれませんが、さらっとしていてこくが出にく く、色々実験した結果 コーン型の低音とつなげる際には単純な一次スロープ(6dB/oct)よりも2次スロープ(12dB/oct)の方が音色が良くなり ました。インフィニ ティのユニットを使った1次スロープ・ネットワークの製作はインフィニティのページ(インフィニテシマル3の改造)に書きましたが、 2.2uF と0.47mH の組み合わせで抵抗なしが最も良かったものの、低周波側での重なりが大きくなり過ぎるためか、どうも各楽器の分離が損なわれ、最終的に二次スロープを選択 しました。このスピーカー・システムでは素子の少ない1次で行きたかったわけです。

 
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                     Infinity EMIT


スー パー・ツイーターのネットワーク

 今回の使い方では、同じくムンドルフのシルバー/オイル・タ イプの1uF のコンデンサーを一個だけ入れ、ハイパス・フィルターとしました。公称4Ωの EMIT は実測では2.7Ωぐらいしかないことが多いようで、カットオフ周波数は58,900Hzとなります。そんな高い周波数で何をするのかと思われそうです が、抵抗を入れずに能率を調整するため、クロスオーバー点をうんと上へ追いやっているのです。せっかくの敏感なリボ ン・ツイーターですので、ダンピング・ファクターに少しでも影響する抵抗はなしで済ませたいのです。事実、あるとないとでははっきりと音が違います。 EMIT を3.5KHzとか、もっと下の方の帯域まで使う場合はこの手が使えないのですが、今回は Audax のツイーターにその帯域を任せて「こく」も狙いました。
ドーム・ツイータとリボンとを一部重ねつつスタガーで使うのはデンマークのダリのようで もありますが、重複する帯域のユニットを二個使う例は古くはセレッションの HF1300にツーパー・ツイーターを乗せた BBC のモニターもあったわけで、ユニットの音色が良いところが出せればいいわけです。HD12ドームの音圧を もう少し上げて C の値を調整すれば、ハーベスモニター HL のようにスーパー・ツイーターを省けるのですが、EMIT の繊細さを加えたいので、このネットワークによる両刀遣いを試みました。グラフを見ていただけば分かるように、特性上は10KHz 以上の周波数で合成レベルがだいぶ上がっているわけですが、この帯域は減衰しやすいですし、狭い指向性の外では音圧が下がります。もとより人間の耳 の感度も落ちてくるところですので、トー タル・エナジーとしては案外これで聞けるものになります。部屋の特性もあるのかもしれません。子音の強調されるような録音ではちょっ と不自然に倍音が出過 ぎるときもありますが、それは録音が悪いわけであり、高域の輪郭を強調し過ぎるオーディオ機器との組み合わせでもきつくなる可能性も ありますが、それは オーディオ・セットが悪いわけです。

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        Frequency Response

出来上がりは?

 トータルとして、このシステムの音にはそこそこ満足しています。
ツ イーターは弦の倍音をよく再現し、若干線が細いもののEMITがあるおかげでノーマルのハーベス・モニターHLよりも細かな空気感が 出ます。ハーベス の方が バランス的に中域が出た感じ、自作のは中域はやや凹み気味ながら艶の感じられるポイントがもう少し上になり ました。ハーベス はときに高域に ちょっとだけ荒れたところを感じる瞬間もありますが、あんな普通のコンデンサーであのバランスに到達しているのは驚きですし、あ れを超えようと格闘し、試聴の際の基準にしてきたわけです。
 インフィニテシマルの改造機と比べても、私のは中域の押し出しがやや少なく感じられます。
伝 説のアングラ・オーディオ店、多田オーディオが PCOCC アズキャスト巻きコイル仕様のインフィニテシマルによって、眼前で演奏するようなとんでもなく素晴らしい音を聞かせていましたが、材料だけで何十万もする上に線自体が製造 中止であり、あれはボイスコイルまで PCOCC に巻き変えるという気合でした。

 結局わが家はイフィニテシマルとハーベス HL、そしてこのシステムの三つをサランネットを張った隠し扉の裏に常設して切り替えられるようにした格好になりました。それぞれに特徴があると言えま す。最近は二次スロープ型の改造ネットワークによるインフィニテシマル3(次の項でご紹介します)にこのウーファーのみつなげたもの の方を一番良く聞いて おり、結果的にはそれが一番リアルでバランスが良かったことになる気もしているので自慢にはなりませんが、
抵 抗で音を調節することを嫌がらずにもう少し追い込んでみようかなと思わないでもありません。まあ、このシステムもなかなかの水準なの だと自画自賛しておきます。さらに高望みして低音の反応をもっと速くするという改善もあり得ますが、35ヘルツまで再生 して反応を速くしようとしたら大がかりなものになってしまいます。モ ニターHLの ような20センチのウーファーを四つ直並列で鳴らせば3センチ級の低音にはできるものの、箱も四つ分要るわけで、最 後は諦めが肝心です。 

 もう一つはB&Wのノーチラス800シリーズなどで感じるような、音像が宙に浮いてツイーターより後ろの空間から出てくるような定 位があればな、と思うとき があります。ただそれはバッフル反射を完全に無くすようにし ないと実現できそうにありません。丸いキャビネットを徹底的に共振対策し、ツイーターはフランジを外してユニットの幅だけにする必要があります。置き方も 壁から離さざるを得ず、機器を家具調のドアで隠すことはできなくなります。今のところユニットの周囲に発 泡ゴムを張り付けるぐらいでごまかしておくよりありません。分厚いフェルトでくるむこともやってみましたが、特定 周波数の高音のみ吸われてかえって音が悪くなり、しかも定位は変わらないという芳し くないものでした。

スピーカー全般について


 オーディオ装置の中でスピーカーが音を決める割合は大きいといいます。電気信号を音に変える大仕事を行う変換器であり、物理的に空 気を震わせる場所ゆえ に、物理的な法則に支配されているということがその理由になっているのではないでしょうか。振動板の材質や構造、ネットワーク回路の コンデンサーやコイ ル、抵抗といった物理次元の物のあり方によって音が変わってくるということは、ある意味で最も楽器に近い部分でもあるわけです。でも 楽器はその楽器固有の 美しい音色を持っていてこそ存在価値がありますが、スピーカーはあらゆる楽器を可能性として再生しなければいけない立場にありますか ら、特定の音を持って いてはいけないという理屈にもなります。そんなことから「楽器」か「原音再生」かという不毛な議論によって人々の立場が二分されて来 まし た。両者を止揚(総合)するべきだ、とか言えばそれで済むわけでしょうが、それこそが大変なのです。

 音を発する構造は、低音に関して言えば、大きなフィルムを波紋型に揺さぶる仕掛けを持った静電型だとか、二階建ての家の屋根裏まで 突き抜けるような巨大 ホーンだとかの特殊な例外はありますが、たいていはダイナミック型の、いわゆる丸いコーン型をしたスピーカーがほとんどです。その音 の違いはコーンの材質 が何であるか、エッジやフレームなど、それを支える構造がどうか、マグネットの強さと振動板の軽さの関係がどうなっているか、背圧を 閉じ込める箱をどうす るか、 などによって音が決まってきます。とりわけ振動板が何から作られるかは、他の要素が概ね似たり寄ったりになりがちなのに対して、非常にバリエーションがあ ります。

 一方で高音については、大雑把に言ってホーン型、ドーム型、リボン型などがあります。高い音は振動が速いわけですから、軽い振動板 の方が有利です。それ とは別に、音の波が崩れた形にならずにきれいな球面の形で出てほしいということもあります。いわゆる分割振動が少ないものがいいとい うことです。振動板が 軽いのは圧倒的にリボン型の系統、分割振動がないという意味ではできるだけ硬い材料を使ったドーム型などが有利です(ホーン型は振動 板にかかる圧力の観点 から有利ではありますが、ホーン自体の音が影響してきますし、私はあまり好きでないのでここでは言及しません)。
 しかし分割振動によって嫌な音が出て来にくいという意味ではソフトドーム型も大変有効で、その場合はその材料 (作り方も含めて)特有の倍音のあり方が問題になります。
 リボン型のように振動板が軽いもの、ある種のハードドーム型のように分割振動を人間の耳に聞こえない高い領域にまで追いやる努力が されたものなどは、前 述の「楽器か原音再生か」の二項対立で言えば、より原音再生を目指し、色づけが出ないように追い込んで行きやすい方向だと言えるかも しれません。しかし完 璧に行かないことはご存じの通りで、何かしらの音色を持つことから解放されることはありません。一方でソフトドーム型の場合のように シルクにダンプ剤を 塗ってみたり、特殊な配合のプラスチックを成形してみたりというやり方によって音色を積極的にコントロールして行って、多くは耳に よって原音に近い−−− その場合は元の楽器が何かによって目指す音も変わってきますが−−−音を再創造して行く方向もあります。どうやっても完全に元の波形 を再現することからは ほど遠い現実からすると、今のところはどちらも必要なアプローチだと言えるでしょう。

 スピーカーの音を聞く、というのは楽器を鳴らしてみるようなもので、楽しい遊びです。その経験で言えるのは、仮に変換器としての性 能を極限まで上げることを目指す原音再生のアプローチをとったにしても、 最後は人の耳によって楽器本来の音の出方をイメージしつつ調整を加えて行くという部分が必要になってくるのではない かということです。どんな「ハイスピード」な時代になっても、物理次元で生きている限り完全はないわけですから、音楽を知っている文化的な耳が大切です。




INDEX