ソフトン (Softone)  M o d e l  2

   
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ソフト・トーンでアナログ的?
 オンキョーのC−700は中古市場ですら絶滅状態のプ レーヤーですし、フィリップスの TDA1541(IC)が良いといったっ て、それの付いた機械も年代物でもはやコンディションの良いものを探すのに苦労します。 ソフトンは個人が設計してネットで販売 をしている横浜の会社で、そのDAコンバーターであるモデル2は一部の真空管マニアの間で一頃評判になりました。値段が安く、プ ロの音楽家もCECのベルトドライブ・トランスポートと組み合わせるなどして満足しているという話を聞きました。使用している DAコンバーターICはバーブラ ウン(現テキサス・インスツルメンツ)のPCM1716です。ΔΣ変調のビットストリームでありなが ら1ビットではなく3ビット処理するもので、現在のPCM1792/98などもこの方式の延長線上にあります。1716は96 KHz 24ビット対応で、バーブラ ウンの96KHz 24ビット機というとPCM1704と比較したくなるかもしれません。しかし1704 は
ΔΣ 変調ではありません。レーザートリミングを施して精度を高め、抵抗ラダー型の欠点である各 スイッチへの電源供給の不揃いを軽減しているとしてマ ニアに高く評価されている最後の「マルチビット」IC(24ビット制御8倍オーバーサンプリング・ディジタルフィルター)であ り、20ビット制御の1702と並んで 高級機に採用されています(300万円のハイエンド機、Rinn のクライマックスや Naim の CDS3、マークレヴィンソン、クレル、ワディアなど)。それに対してこの1716は欧州の音楽系プレーヤー に多く使われてい て、ミュージカル・フィデリティ、ロクサンなどの名があがります。1702についてはマッキントッシュの項で書きましたが、ハイエンド製品への憧れを持っていない者としては、とりあえず音楽系と聞くと試してみたくなります。

 このソフトン・モデル2はDA変換後のアンプ出力に真空 管(6DJ8)を用いていますが、同じ趣旨で192KHz まで対応した 後発の競合メーカーのDAコンバーター(PCM1796か1792のどちらかを使用)と比較試聴してみると、あきらかにモデル2の方が高域に過剰なきらびやかさがなく、落ちついた音で鳴るという経験をしました。昔の1ビット機にありが ちだった、滑らかながら音色が平坦にな る上滑り感もあまり感じません。自分用に手に入れてみると、やはりソフトトーンを名乗るやわらかさと耳当 たりの良さが確認できま す。アナログ・フィルターもパッケージ化されたものを使わずに基板上に部品を並べて作ってあります。これは音質に及ぼす影響として大きなポイントです。

改造
 ただ、いじってみてどこまで改善されるかは知りたかった ので、ちょっと部品交換してみました。回路変更や他との同条件比較はで きませんからICの絶対評価にはなりませんが、PCM1716の素性を探りたいという気 持ちもありました。周囲の部品が悪ければどんな優秀なICでもひどい音になりますし、部品を換えて行く過程でIC本来の持つポエンテシャルが感じら れるときもあります(思い込みかもしれ ませんが)。

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       部品 交換後のプリント基板


 詳細は割愛しますが、カップリング・コンデンサーはイン ターテックの錫箔フィルムに JENSEN の銅箔オイル、それと銘柄不明 のフィルム(米マロリーなどにそっくりな黄色)をカクテルにしたものにし、フィルム・コンデンサーはシーメンスMKH(100V の裸電極タイプ)やスチロール・コンデンサなどに交換しました。

 カップリング・コンデンサーを「カクテルにした」のには わけがあります。錫箔巻きのコンデンサは大変良い音色を持っています。材 料が重く制振性があるからか、素材自体の音色かは分かりませんが、これに変えると静かな音になって滑らかさと繊細さが出ます。しかし中高域での鳴きが減るためかより高域の細かさが目立つ場合があり、他とのバランスからやや シャランとした、8〜10KHzあたり が強調された響きに感じられるときもあるのです。そのせいか錫箔には癖があるという人もいます。そこで今回 は銅箔オイルで美音系とされる JENSEN (JANTZEN とは別のメーカー。これだけ聞くと美音というよりも案外引っ込んだ音に聞こえることもあります)と、聞いてみて癖のない中域の充実ぶりが良かった普通のポリエステル・フィルムのものを加えてバラン スをとったわけです。そして面白いの は、こうしてカクテルにして使った場合の最終的な音の表情は、それぞれの容量に比例しないということです。例えば10uF の赤いコンデンサーに0.1uF の青いコンデ ンサーを加えると、音は100対1でほとんど赤い色になるかというとそうではな く、案外青紫に聞こえたりするのです。まるでホメオパシー医術で分子が一個も含まれないぐらいに希釈した毒を薬として使 うような話です。どんな錬金術なのでしょうか。
 ついでに言えば、音質に影響する100個の部品があれば、部品一個当たりが決定する音質は全体の1パーセントに過ぎないはずで すが、99個まで部品選定 を終えて最後の1個をどの銘柄にしようかと吟味しているとき、その一個で変わってしまう音の割合はとても1パーセントとは思えな いという不思議もありま す。完成に近づいた音決めも、最後の一個で台無しになることがあるのです。部品と音の関係は常にリニアな等式で結ばれません。

 抵抗は小電力の部分をオーマイト(一部アーレン・ブラッ ドレー)のカーボン・コンポジット(ソリッド・カーボン型で、モデル2後 期型では標準装備)に、大電力部をカーボン抵抗のような音を出すKOAのシリコン・コーティング抵抗に交換しました(海外名を「Kiwame」という薄緑色のSPRシリーズで、これ以外にも DALE の捲線も試しました)。電解コンデンサは大容量のものはそのままにしておいて、 小さいものをニッケミSMGや NEC−TOKINのタンタル、ブラックゲートの無極性のものなどに換えてみました。どれも音 を聞きながら決定して行ったものです。

カプラー外 し
 面白かったのは、このモデルはエラー表示のカウンターを前面パネルに装備しているのですが、見ることがないのでカプラーを外
し てみると、明らかに音の鮮度と繊細さがアップするということです。しかし別の言い方をす ればバランスが変わるとも言えるので、外した状態で部品交換して音を合わせて行きました。設計者の方は表示部への配線を外して音が変わるはずはないと おっしゃってましたが、理論的には確か にその通りで、しかし音は変わりました。不思議です。

真空管の交換
 出力の真空管はずいぶん色々やってみた後、一時TENの 6R−HH2に落ち着きました。6R−HH2は6DJ8の規格とは違うの で電気的、特性的には本来適合しません。一般的には6DJ8よりも高域が落ちたふわっとした出方になるようです。これは表示基 板へのカプラを外し、部品を交換した音がやや高域のディテールを上げることになったためにバランスを取る目的で導入したもので す。しかし三段あるフィルター部のコンデンサー (390pF×2, 150pF×2, 100pF×2)を Xicon のスチロールに換えてからは
TESLA の金足にしています。

試聴と結論
 労力に見合ったとは言えないまでも
、 結果的に部 品交換によってかなり満足行く音になりました。この機械、値段からすると大変良い音で、オーディオ・マニアよりも音楽愛好家に多 い、やかましくない音を求める人には良い選択だと思います。一 音一音がお互いにマスキング状態になら ないという意味での隙間感と表現の幅ではオンキョーC−700には及びませんし、TDA1541系の Naim CDSやマランツ CDA94 の改造機と比べても、高域のバランスを同じように整えた場合でもやはり若干変化と立体感に乏しい感じはありました奥 まったところからフォルテでぐっと前へ音が出てくるようなところで常に前へ出ているというのか、フォルテの音が同じようにきれい だったとしても幅が少ないのです。ESS9018機 でも同様に感じましたが、音色が平板だというこうした特性は最近のDAコンバー ターICに共通なのかもしれません。ビットストリーム機だからでしょうか、それとも8倍オーバーサンプリグ・ディジタルフィル ターのせいでしょうか。答えは風の中です。それでも黎明期の名機はそのまま鳴らせば問題含みのことが多いし、一般的にはいじるの も面倒な話です。そう考えるとモデル2は新品が手に入ってこの値段なのですから、やはりこれはお勧めです。

 蛇足ですが、内部の部品を自分で交換すると製品の保証対 象外となり、メーカー修理を一切受けられなくなるということがあり ます。メーカーによっては目こぼしをしてくれるところもありますが、ソフトンでは細かな技術的説明も含めて大変親切に相談に乗ってくれる一方でこの点は徹底しておられるということです。改造は真空管の交換ぐらいにとどめておくべきかも しれません。標準で付いてくるソブテッ クの真空管はかっちりとした硬めの中高域に太めの低音という傾向なので、低音が少し弱いながら高域に繊細 感の出る TESLA や、ほどほど細やかでリアリティのあるナショナル・エレクトロニクス(アメリカの会社)の6922などを使い、表 示基板へのカプラーをそのままにしておけばそこそこバランスが取れるでしょう。6R−HH2として他に日立とNECを試しました が、
TEN より は高い方が強調されました。6922(6DJ8 の国別呼び名違い)としては新フィリップスECGも使ってみましたが、こちらは高い方が繊細に延びるという感じではなく、ちょっ と元気の良いものでした。エレクトロ・ハーモニクス金足(ソブテックの現在の名前で、構造がほとんど同じ)も試しましたが、音はソブテックと違いが分かりませんでした。



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