クラシック向き のスピーカー? 

  
素 人知識ですがオーディオ用スピーカーについて良かったものや感じてきたことをいくつか述べてみたいと思います。聞く音楽は色々な がら機器の音を決めるとき にはクラシックが中心で、主にヴァイオリンの倍音の響きを見ますので、アルテックなどに代表される軽い振動板のウーファーにホー ンを乗せたものや JBL のモニターなどの主にアメリカ製のスピーカーや、名機と言われてもジャズのホーンやドラムの演奏を眼前に繰り広げるタイプのものは取り上げません。コン サート会場で生の楽器を聞いたときのやわらかくて繊細な音を理想として、なるべくそれに近いバランスで鳴るものを求めてきたから です。

      
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   タ ンノイ・オートグラフ (Tannoy Autograph 1953)  38センチの ユニットを使い、フロントロー ドホーンと複雑なバック ロードホー ンを組み合わせ、ツイータもホー ンという凝った構造の 大型のコー ナー型フロア・スピーカー。

 わが国でクラシック音楽に向いたスピーカーというと、ヨーロッパ の、たいていは英国のものをイメージする人が多いようです。古くからのものではクォード(QUAD)の静電型ESLとタンノイ (TANNOY)が両雄で しょうか。それより古いものや珍しいものを使う人はこだわりのある
趣 味人でしょう。

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 タンノイ VLZ (3LZ in Cabinet 1961) 25センチのユニットを使っ た小型の密閉型スピーカー。 

タンノイ(Tannoy)

   その二つのうちでも特に「クラシックと言えばタンノイ」というほどに誰しもが口にするようになっている現状は、今や他にも多くのメーカーがあるので驚くば かりです。ガイ・ルパート・ファウンテンが創立したタンノイはコーン型のウーファーの中心にホーンの高音ユニットを同軸で配す る、いわゆる点音源のユニッ トを使ってい ますが、日本での人気は剣豪小説家の五味康祐氏が褒めたバックロードホーンのオートグラフあたりからでしょうか。といっても一般 の人がそうやすやすと買え る代物ではありませんでした。同じ時代には小型のVLZ(初期型)も評判が良いものでした。スピーカー自体の性質として中域が抜 けやすい傾向があり、箱や アンプの音色で合わせる必要があったものの、いぶし銀と評されたその音は独特のもので当時から多くの人に愛されました。一種の色 付けと言っても良かったと 思います。 モニターゴールド系ユニットのホーン部の癖なのか、高域にややざりっとした感触の輝きが乗り、オーケストラなどの複数台の弦楽器合奏部などでは、その不透 明さゆえのある種のリアリティを感じさせました。もっと前のモニター・レッドやシルバーの方が良かったという説もあるようです が、そのあたりの話は特別な愛情のある方にお任せします。

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   タン ノイ・アーデン (Tannoy Arden 1976)  HPD385を使用

 しかし個人的にはそれらいわゆるタン ノイらしい伝統のタンノイよりも、工場が火事で焼けた後に新しく生まれ変わったHPD385というユニットを使った新生シリーズ の一番大きなスピーカー、 アーデン(Arden)が好きです。HPDのシリーズは一つ前のモニターゴールドのユニットよりもバランスのせいか倍音が素直に 聞こえます。385は38 センチの 2ウェイなので中音が抜けてしまうかというとさにあらずで、朗々と濃密な音を響かせていました。その下のバークレーやそれより小 さいモデルではやや痩せた バランスに感じたのに対して、低音が出るせいか安定し、むしろ中域が豊かに聞こえます。組み合わせる機器に敏感に反応して細部を 描きだすという方向ではな いかもしれませんが、大づかみにオーケストラの響きを再現していて、艶の乗ったきれいな音に聞き惚れてしまいます。ラックスの SQ38(F)あたりの管球 アンプ(VLZ との相性が良いとよく言われました)と組合せると中古オーディオ店の看板商品のようでハマり過ぎな感じですが、定番を買っておいて他に浮気せずにクラシック音楽を楽しみた い人には最適なのではないでしょうか。敏感過ぎないということは、 何を聞いてもきれいに聞こえるということでもあります。

    
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  モ ニター・ゴールドに代わって出て来た38センチ同軸の新型 ユニット、HPD385。タンノイの基本はずっとこの形で、コーンの中央部、センター・キャップを見てフルレンジだと誤解する人 もいるが、そこは音を通す素材であり、その奥に長いホーンの高域ユニットが隠れている。
              
 しかしそのアーデンもこの後ユニットのマグネットがフェライトに変 わってしまい、タンノイ自体の会社運営も変わってハーマン・カードンの資本が入り、さらにスピーカー・システム全体が別のシリー ズへと展開して行きます。 それらは今あちこちで耳にする機会がありますが、新しいものについては触れません。聞いてみれば気に入るものも見つけられるかも しれません。そんなわけで、懐古趣味ではないつもりですが、自分にとってタンノイと言えばアーデンなのです。デザイン的には同じ HPD385で旧型のチーク細工の箱に入ってい るレクタンギュラー・ヨークの方が好きなのですが。



クォード(QUAD)/ESL 

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             クォード・ESL (QUAD ESL-55/57 1957)

 もう一方の雄であるESL(エレクト ロ・スタティック・ラウドスピーカー)については、これがいい、と言ってしまえばそれで話が終わるような代物で、コンデンサー型 というその方式から出てく る音は一般のダイナミック型のスピーカーとは違います。このスピーカーといい、管球アンプのQUADUの 設計といい、クォード創業者のピーター・ウォーカーはやはりオー ディオ界の天才でしょう。このESL、高域の繊細さと自然さでは比べるものがないとよく言われますが、音圧が出ないなど気難しい一面もあり、湿気によって 経年劣化しますし、置く場所の影響を受けるのでセッティングが難しいことでも有名です。自分のものにしたことがないのであれこれ 言えないのですが、うまく 鳴らせてないときは淡白でさらさらした、薄っぺらい音になってしまいます。低音が出ないという欠点は確かにあるようで、上下に2 台ダブルで重ねて使うス タックというお金のかかる道楽もありました。空気清浄機というのか、遠赤外線ヒーターというのか、デザイン的には銅色パンチング メタルのパネル形状も独特 できれいでしたが、後には少し意匠を変えて黒いネット張りのものになってしまいました。そして今また、新しいESLが出てきたよ うです。

      
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          B&W (Bowers and Wilkins DM70 1970)

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          Pioneer PT-R7 (1974)

 コンデンサー型の利点は重い振動版を 駆動する必要がないということです。現在人気のB&Wも一時DM70というコーン・ウーファーと合わせたモデルを出していたこと があります。そして原理こ そ違うものの、その延長線上にあるのがリボン型のスピーカーでしょう。日本ではパイオニアのPT−R7などがスーパーツイー タとしてもてはやされました。N極とS極の磁石で挟まれた強い磁界の中に薄いアルミの板を置き、そのアルミ板 (リボン)に電流を流すという仕組みのものです。アルミ板の電気抵抗がほとんどないためにインピーダンス(交流時の抵抗値)が極端に低く、トランスを使っ て補正してやる必要がありますが、銅単線を巻いた重いボイスコイルを用いず、 薄い箔状のものが動くだけというところが静電型と同じです。そしてさらにそれがICなどで使われるフォトエッチング技術と合わさり、インフィニティのよう に薄い膜にボイスコイルを迷路のように平面プリントして(したがってインピーダンスが上がってトランスを省けます)前後をマグ ネットで挟む構造へと発展し て行きましたが、 アポジーなどの例外を除いて低音用は難しいので、別にダイナミック型と組み合わせるというのが一般的です。

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ESS PS820  ハ イルド ライバーを使った小 型 のシステムで、落ち着い た音だった

      
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   ESS AMT-1 (1973)  ESSのフロア型の代表的なモ デルで、メタリックに鳴る こともあった。

   他に振動板 の重さから解放されているユニットとしては、 アコーディオン・プリーツ状のフィルムが伸び縮みすることでその間に挟まれた空気を押し出す原理のハイルドライバー というものがあります。アメリカの ESSというメーカーが出したのですが、そのうちの小さなシステムを聞いたところ、おとなしいチューニングながら細やかさも感じさせ、なかなか良いバラン スでした。しかしユニットだけ買って色々追い込んでみたところ、どうもある種ホーン型のようなはっきりしたエネルギーを感じさせ る癖があるようで、好みに は合いませんでした。大型の看板システムも輝かしいというのか、鳴らし方によってはしゃりしゃりするというか、同じように過度に 明晰な傾向がありました。 これを好む人はインフィニティの音を暗いと表現することもあるようです。ハイルドライバーはESSの他では現在大変人気のあるド イツのELACの スピーカーシステムなどにも使われています。



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