Lo-D HDA-001

   
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プ リント文字は一部消してあります。

この
DA コンバーターの位置づけ
 日立のかつてのオーディオ・ブランドであった Lo-D (ローディ) が1984年に発売 したセパレート型の
CD プレーヤ DAD-001 の DA コンバーター部分です。CD が世に出た 1982年の二年後であり、これが世界初のセパレート型 DA コンバーターになるようです。Lo-D が総力を結集して作ったということで、価格も気合いの60万円でした。中を開けてみると基板の裏側にコンデンサーが足してあったり、パターンの一部をカッ トしたりリード線でつないだりしており、設計変更しつつ期日に間に合わせた苦労の跡が見受けられます。つまりそ れだけ少量生産だったということでもあるでしょう。一部マニアの中にはこのコ ンバーターが今でも最高だという声もあるようです。

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構成
 このオーディオ・ページは、
CD プレーヤの音はCDフォーマットでしか再生 しないのであればハ イビット制御もアップサンプリングもしない16ビット機が一番自然であり、ディジタル・フィルターも低 次のものの方が良いという考えの下に書いています。それは個人的経験から来るもので理論的には証明でき ません。そしてその考えに合致する機械は、CDプレーヤ初期に開発された DA コンバーター・チップ (IC) を使ったものということになり、ソニーの積分型(CX20152 や CX20133 [廉価版])、バーブラウンの(R2R)抵抗ラダー型(PCM53〜 56の二桁番台/[PCM61は18ビット制御、63 は20ビット制御、1702 や 1704は24ビット制御])、そしてフィリップスの DEM型(TDA1541[A]/[1540 は14ビット制御])の三方式のものがそれにあたります。この Lo-D のコンバーターはその三つのうちの抵抗ラダー型の雄ということになります。しかも2倍オーバーサンプリングのディジタル・フィルター搭載であり、ディジタ ル・フィルターとしても最低次なので大変有望です。

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    16ビット抵抗ラダー型 DAコンバーター IC    バーブラウン PCM53


部品
 使用しているDA コンバーター・チップは16ビット動作のバーブラウン PCM53JP-V(左右独立で2個/日本製/Vは電圧モード制御型)です。
こ の構成の DA コンバーター・システムでは、後発のソニー DAS-702ES、DAS-703ES がトランスも含めて似た部品で作られており、そちらの方が有名かもしれません。ディジタル・フィルターのみは 同じ2倍でも Lo-D が NPC(セイコー)SM5800P というチップを使っており、CXD23034 を使っているソニーとは異なります。しかし個人的経験でソニー製品は他機種にお いて音作りが好みでなかったり、この二製品でも苦手なエルナーの音響 用コンデンサーが多数使ってあったりするので、702 も 703 も聞く機会を持っていません。アナログ・フィルターをフィルター・ メーカー製のパッケージを用いず、基板上に展開する本気の造りになっ ていますし(音質的 に重要なポイントです)、気にはなるのですが。
 そのアナログ・フィルターはこの Lo-D ではムラタ製 OEM の7次アクティブ・フィルター
(日 立2136881)で、 真鍮ケースにブチルゴムで封入されています。中はセラミックと思われ るチップコンデンサーとプリント抵 抗、小さなSOP タイプのオペアンプ JRC4560A 二個で構成されています。

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    2倍オーバーサンプリング・ディジタ ル・フィルター    NPC SM5800P

 トランスは大型のトロイダル型一個で全てをまかなっています。時期によって厚みの違うものが存在しま す。

 コンデンサーは電源部の大型の平滑用が自社製、それ以外の電解が日本ケミコン(ニッケミ)のオーディ オ用 AWD シリーズ、小さいもの数点が同じくニッケミのSM(現行 SMG の旧型番)、一部松下製などです。フィルム・コンデンサーは U-con、バイパスコンデンサ(パスコン)/デカップリング・コンデンサーの用途で自社製(日立)の銅箔スチロール・コンデンサー(ブチル防振ゴム巻 き)が使われています。時定数に関係のある小さいコンデンサーも
信 号経路では同じ銅箔スチコンであ り、それ以外にニッセイの AMZフィルム、数個の円盤セラミックも使われています。

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  アクティブ型7次ローパス・フィルター(アナログ・フィルター)日立 2136881


 抵抗はいくつかのカーボン皮膜抵抗と一個(時期によって複数個)のソリッド・カーボンを除いて理研の RMG (音響用ソリッド・カーボン抵抗)で固められています。

 これらの部品選択は、ニッケミのオーディオ電解、U-con、
銅箔スチコン、RMG抵抗な どのラインナップから見てオーディオ評論家の金子英男氏の意見を取り 入れたものかと思われます。この当時多かった部品の顔ぶれです。

  オペアンプは I/V 変換に NEC の一回路用 C4081C が四つ、ディエンファシス回路を含むプリアンプ部に二回路用の三菱 M5219L  がステレオで二つ使われていま す。後者は脚の配置が一般的な 片側四本のカニ脚式のもの (DIP)ではなく、一直線に並んだインライン型のものなので、一見すると何の IC かな、という感じです。そしてその後ろのアンプ部はオペアンプ構成ではなく、今は製造中止になってしまった東芝の音響用 FET、2SJ72 と 2SK147 を初段に用いたディスクリート構成になっています。これらの FET はGR(グリーン)やBL(ブルー)ランクではなく、その上の V ランク(電流増福値 hfeの違い)が使われています。この FET は「艶のある音」とか「ゲインが大きい」などと評されることがあり、マニアの間ではときどき話題になるようです。その後段では 2SC2389 と 2SA1038、2SK213 と 2SJ76 を経て出力されます。
 
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    ディジタル入力部基板(上部)


音の感じ 
 HDA-001のノーマル状態での音は、全体の帯域バランスとして はどっしりとして低域は豊かな方であり、あまりきらびやかではなくて 一聴しておとなし い感じの音でした。「温かみのある」と表現されることもあるようで すが、分からなくはありません。ただ、フォルテで強い音が出たときに 高域に幾分チリチリした感じがありました。それが災いしてちょっと マッシブで耳に痛 い、全体にやや不透明な印象を与えます。それを歯切れの良いスパイス のように感じる方もおられるでしょう。

 他コンバーターとの比較では、フィリップス系
で 同じく初期の DA コンバーターであるマランツの CDA-94 と比べてみると、表情の付き方が若干異なります。ノーマル状態での CDA-94もやはりあまり高域寄りのバランスではな く、どっしりとしてどちらかというとおとなしい感じがあ り、それでいて中高域に反響があるのか独特の 硬い芯のようなものを感じさせ、その帯域のみ不透明な痛 さになるところがありました。こうして文にすると Lo-D と良 く似た印象になるのですが、一番違うところは、この Lo-D の抵抗ラダー型のシステムは音の出方がもう少し元気というか、馬力のある感じに聞こえます。良く言えば動的で生き生きしているとも言えます。一方で高域の きつさ を感じさせ、ややラフで荒っぽい感じに響くとも言えま す。対するフィリップス系のシステムには、もう少し ヴェールのかかったようなやわらかさ、滑らかさがあります。生っぽいという言葉を生き生きとした表情があるという意味に解すれば抵抗ラダーの方が、ふわっ とやわらかい響きという意味に解すればフィリップスの DEM の方がそれらしいということになりそうです。この元気な 表情は同じバーブラウンの PCM 二桁番台の IC を搭載している DENON の DCD1300 と 1500 *(PCM54 と56)で も似た傾向を聞かせていたので、抵抗 ラダー式の特徴なのだと考えたくなりま す。しかしこの段階のノーマル同士の比較では、ディジタルフィルターの2倍 (Lo-D) と4倍 (フィリップスマ ランツ系) オーバーサンプリングの違いという可能性もあります。

* その後 DCD1500 のパッシブ型アナログ・フィルターをこの機械に移植してみたところ、ちょっと賑やかな音になりましたので、
DCD1500 に限ってはその元気良い印象は 賑やかなフィルターのせいであ る可能性も出てきました。

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    部品交換後のメイン基板    ビタミン Q オイルパーパー・コンデンサによるパスコン、フィルム・コンデンサ代わりのブラック・ゲート


改造
 さて、ノーマル状態では高域にチリチリした感触を覚えたためにそのままでは必ずしも満足が行かなかっ た HDA-001 ですが、例によって部品をいくつか取り替えてみました。まず、一見して外したくなったのは銅箔スチロール・コンデンサーです。これはノイズをアースへと逃がす意味もあって たくさん使われています。
銅箔スチ ロールはサンリングやタイツーなどの他ブランドでも似たり寄ったりでしたが、ちょっと賑やかな色が乗る傾向があるようです。普通のアルミ系の誘電体を使っ たスチロール・コンデンサーの方がすっきりとして余分な音が加わらな いのではないでしょうか。全部で40個以上使ってあり、いくつかはそ の目的からして外 したままにしても 問題はないと思うのですが、設計者の考えに従い、ここではとりあえず全て別のものに置き換えることを目標にしました(高周波特性の良いブラック・ゲートに 交換した部分とパラになっているところは省略した箇所もあります)。 シーメンスのスチロール・コンデンサーが海外のオークションでまだ手 に入ったのでそれ にしようかと考えていたのですが、常々教えてもらうことの多い多田 オーディオというお店の店員さんと話していて、オイル コンはどうかという提案をいただきました。確かにスチロール・コンデンサーは正確ながら高域もよく伸びているため、きつさを強調しないためにはオイルコン の方がいいかもしれません。そこで手元に残っていた四つと、市場にま だ存在した残りをかき集めて、Toichi のビタミンQオイル含浸のオイルペーパーでやってみることにしました(デル・リトモで同等品も出ています)。

 それから黒いキャンディー・コーテッド・ヌガーみたいな U-con ですが、こうしたフィルム系のものも絶縁体の種類によらず、どれも癖のある音がします。数 uF の容量ならスピーカー用で錫や銀箔などの良いものもありますが
、いかんせんサイズが大き過 ぎます。そこでこれも絶版ながらブラック・ゲートの両極性のもので代 替することにしました。

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      部品交換後の上基板。赤と黒の電解はブラック・ゲートで、それぞれ両極性とスタンダードのシリーズ、スチロール・コンデンサは独本国のシーメンスの赤文字 と黒文字のものに交換。この基板はトランスポートからの入力を受 けてディジタル復調をする部分。次の下基板で左右分離を行った後 DA コンバータ IC へと進んでアナログ信号となる。したがってこの上基板ではディジタル信号がその信号に相応する量の電圧値に変換される前であり、音の良いコンデンサーを使 うことに何の意味があるのかと言われそうな部分である。しかし実 際にやってみると、たった一つの電解、スチロール・コンデンサを 取り替えるだけで音は劇的 に変わるのである。理屈はよく分からないが、ディジタル・ステー ジでこれほど変わるということは、クロックを同期させる PLL を含むこうした部分の精度が決して完璧なものではなく、CD の情報のかなりの部分が音になっていないということなのだろうか?

 その他、アナログの信号経路にある小型の銅箔スチロール・コンデン サーは富士通シーメンスのアルミ・スチロール・コンデンサーにし、 ディジタル・イン ターフェース部(上基板)の松下の電解 470uF はブラック・ゲートの両極性、ニッセイ AMZ フィルムとセラミック・コンデンサーはシーメンスのスチロール(0.1uFのものはブラック・ゲート両極性)、SM10uF 電解三つはブラック・ゲートの10uF
に交換しました(同両極性 6.3V22uF も使ってみましたが、中高域が張ってきつくなったので戻しました)。こうしたディジタル信号処理部も部品一つで音が変わるから不思議です。

 抵抗は元々ほとんどブルーの RMG が付いているわけで、このマニア受けする銘柄は人によっては独特の艶があって反響が乗る美しい音と表現します。そういう余分なものが乗るのはありがたくな いわけですが、今まで単独で使ったことはなかったためにどの程度かは 実際のところ分かりません。ただ、色を感じることの多い金属皮膜では なくカーボン・コ ンポジットタイプですし、オーマイトもアーレンブラッドレーもキシコ ンも悪い印象はなかったので、数も多いことですしここは触らずにおく ことにしました。

 
I/V 変換のオ ペアンプ、C4081C の付いているところは差し込み式のアダプターを取り付けて、アナログ・デバイセズの OP42 か古い JRC5534(艶あり)かで行くことにし、いったんは後者に決めました。選別品のDD と通常品の D があったので、以前の試聴ではやわらかで繊細に聞こえた選別品にしようかと思ったのですが、今回のものは長期保存未使用品ということでエージングが完了し ていないのか、高域が前へ出過ぎる感じがあり、とりあえず通常品にし ました。しかしその後ナショナル・セ ミコンダクター社の LME49990 にしてみたところ、滑らかさと繊細さが出ましたので、そちらに変えました。5534DDと比べると、今回に限っては明らかにやかましくないです。

 電解コンデンサーはニッケミの AWD で、もうさすがに容量抜けを起こしているか、その危険があります。A で始まるのはオーディオの A なので音響用ということですが、メーカーに問い合わせてみると音響用のタイプはオーディオ・メーカーごとにそのメーカーに依頼された仕様で特注供給してい るだけで一般売りはしていないとのことでした。
A の後に付くアルファベット二つのうち二番目はどこのメーカー向けであるか、三番目は通常品と同じく時期を表すようです。Lo-D 向けという話になると、日立のオーディオ部門自体がとっくになくなっ てお り、Dシリーズも大昔に生産終了しているので新品で元には戻せません。
 
オーディオ 用電解コンデンサーはどこのメーカーもほぼ全部音がやかましい傾向が あります。したがって普段なら使わないのですが、日本ケミコンのもの についてのみは、 特に古いものは結構太くておとなしい音だったという人がおり、その方 が現行他社の音響用は色づけがあると言うので信用できるような気もし ます。しかも今回 は他の部品を交換してみてこの電解を残した状態でなかなかいい音にな りましたので、取り替えるのを躊躇しました。テスターで計ってみても 最大10%ぐらい しか容量が減っておらず、誤差の範囲内なので、数値的にはとりあえず そのままでもいいような状態です。古くなったものは全て交換するとい う原則で行くな ら、現行通常品の SMG シリーズにするのがいいだろうとは思いました。このシリーズはふっくらとしてややオフながらも素直な音です。ただ、今回は AWD シリーズに比べてどの容量も二回りほど小型化しており、音色も変化することは間違いないでしょう。メーカー本社の方の説明では紙は AWD と SMG とで同じ、電解液は違うそうで、後継現行の AWJ(一般には手に入りません)とAWD とでは電解液が同じでも紙が違うというお答えでした。結局しばらくはそのままで行き、その後、全体をブラック・ゲート化しました。

 電源部の大きな 4700uF の電解二つは CDA-94 のときと同様、イギリス K e n d e i l の 22000uF のものに交換しました。その横と 1000uF の電解の横に一つずつある黒い筒型の、一見電解に見えるやや大きなコンデンサーは、容量表記を見るととんでもなく大きなものに思えますが、実際は単位が違 い、0.1uF のフィルムでした。用途は電解と並列にしてアース側に高周波成分を逃がすもので、他の 0.01uF のものと同じです。どうやらラムダコンの代替で使われるようになったあまり評判のよろしくないもののようで、これはサイズが何十分の一かの両極性ブラック ゲートに置き換えました。

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    フィデリックス製ローノイズ三端子レギュレーター


 三端子レギュレターは当初フィデリックスの ローノイズ・タイプに交換しました
(7805/7815/7915)。 これはマランツ CDA-94 で行ったことと同じです。換えた後、音がしなやかで やわらかくなったのにディ テールは出たので、これぞノイズが減った効果だと喜びました。しかし その後、なぜか壊れてしまいまし た。最初におかしくなったのは 7815 のプラス15Vの部分でしたが、何事もなく前日聞き終えて、翌日電源を入れてみたところ高周波のノイズが乗ります。しばらくすると消えるのですが、また いったん休止してから電源を入れると同じこ とになります。そのうちノイズは消えなくなってしまいました。どうも発振していた感じで、場所を特定するために通電して電圧を当たっているうちに本格的に 壊れてしまいました。 定格電圧が出なくなっています。ショートさせたりはしてないので、徐々に壊れたようです。三端子レギュレータは入力と出力の電圧差を熱として放出し ますので、その差が大きいほどしっかりした放熱器を付けてあげないと いけません。はっきりしたことは分かりませんが、このローノイズのレ ギュレータはその あたりがかなり敏感なのかもしれません。元々付いていたヒートシンク に専用のシリコングリスで密着させて取り付けたのですが、マージンが ノーマルのレギュ レータよりも少なかったのでしょうか。ここの入力電圧はかなり大きい 方で、29.1V あるので、そのせいかもしれません。デンマーク製の同じようなレギュレータは MAX 25V だったような気がします。いずれにせよ、残念ながら最終的には通常の78(9)x x シリーズに戻すことになってしまいました。

 改造作業は結構面倒でした。何しろ銅箔スチロール コン デンサーだけで50個ほどになるので、値段もずいぶ んでしたが単調な作業が延々と繰り返されます。

 部品交換が 終わって電源を入れるときはちょっと緊張します。交換作業中は通電し ていない状態ですので、壊してしまっていることはないはずですが、つ なぎ間違えやハン ダ不良などは起き得ます。無精して複数個の電解を 取り替え、その脚をまとめて切ろうとして一カ所忘れ、それがシャーシ に接触してショートさせてしまったこともあります。そして何十カ所も 一度に作業する と、不具合が出たときにどこが悪いのか分からなくなります(かといっ て一つずつ交換するたびに音を聞いていては日が暮れますし、基板接続 部分のワイヤー類 も痛みます)。今回もスムーズには行かず、片側のチャンネルが断続的 に途切れながら音が出るようになってしまいました。パパパパッとノイ ズが混じりなが ら、その周期で音楽信号が脈打つのです。時々は電源を入れ直すと収ま るものの、ガスコンロの着火用圧電素子の影響を受けて再発する、他の 機器の電源投入に よる電圧変動の影響を受けてまたノイズが出だす、一度出るとそのまま では直らない、という状態。これには弱りました。折角変えた部品を元 に戻して行って、 どこが悪かったのか調べようとしたのですが、どこもおかしいところが ありません。抵抗類は変えてないですし、滅多に壊れるものでもありま せん。コンデン サー類も新しくしたので、パンクということは考え難い状況です。配線 は間違ってません。結局長い間悩んで、意外なことがわかりました。ア ナログのプリアン プとして用いられているオペアンプ (M5219L)の脚につながった抵抗二本(R909/R910)にパラレルでコンデンサーが付けられるようになっているのですが (C933)、他の個体ではそこに15pFの発振防止コンデンサーが 取り付けられているのに、私のはただ穴だけが開いた状態で省略されて います。ここに回 路図に本来あったコンデンサー(富士通シーメンスのスチロール)を各 チャンネル一個取り付けると、症状は収まったのです。メーカーではそ れ用に設計してお いて、実際は省略しても発振しないことからこの時期の個体では取りや めていたのかもしれません。それを私が他銘柄のコンデンサー類に変更 したため、値は同 じでも電気的なバランスが変わったのでしょう。 発振が始まってしまったようでした。

時 限爆弾
 さて、部品交換後の音については後で詳しく述 べますが、とりあえず気に入って聞いていまし た。ところがある日突然、4時間ほど連続で音楽 をかけていた 後、片側のチャンネルからボソボソとノイズが出 るようになってしまいました。熱でどこかの半導 体が逝ってしまったのでしょうか、困りました。 アンプならまだしも、DA コンバーターともなるとディジタル回路がありますし、専用 IC もたくさん付いています。 でも不具合は片チャンネルだけで音は両方出てい るので、アナログになって以降の段の後ろの方の どこかでしょう。オペアンプは差し替えてみても 変化がありません。
や あ、面倒なことになりましたよ、と普段色々教え てもらう多田オーディオに行く機 会があったので喋ってみたら、店員さんニヤニヤ して、それ、まず100%アナログフィルターで すよ、とのこと。同機種を何台も改造して売った 経緯があるそ うで、その全てが時限爆弾のようにそこが壊れた というのです。急冷スプレーをかけてみて、何か 変化があれば間違いありませんとおっしゃるの で、いっそ左右 のフィル ターを入れ替えてみたところノイズは別のチャン ネルに移動しました。 情報はありがたく、しかしがっかり。部品がなさそうなのです。

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シー ルドケースを取り除いたアナロ グ・ローパス・ フィルタ

 さてこのアナログ・フィルター(
上 記写真/日 立2136881)がどうして 時限爆弾かというと、シールドケースの中にブチルゴムで封入されているからのようです。 マークレヴィンソンのプリアンプもエポキシ・ モールド の似た手法でモジュールが壊れたそうですが、熱がこもって十数年経つ頃には中のオペアンプがだ めになるのだそうです。まだ壊れていない個体を お持ちの方は今のうちにシールドケースとブチル ゴムを取り除いて放熱できるようにしておけば安 心だろうと思 います。ただしよほど上手くやらないと、その際 に壊してしまう可能性もあります。実際のとこ ろ、内部のオペアンプを交換しようと思って分解 に取りかかった のですが、一つ壊してしまいました。角の辺をヤ スリかグラインダーで切り取って開けば良かった のに、ハサミが入ることをいいことに真ん中あ たりのシールドケースを切り開き、ラジオペンチ で缶詰を開け るように巻き取ろうとしました。ところが中の基板がセラミック製なので、応力をかけたときに割ってしまいました。それでも負けじとプラスチック板とプラリ ペアで割れた基板を補強して、切れたパターンを 極細単線でハンダ付けし、オペアンプを交換した のですが、ハムノイズが出て音が出ません。分 かったことはな んと、この基板は一面をアースにした上に塗装 し、その上に配線をプリントしている構造で、割 れた断面を見るとプリントパ ターンとアースが塗膜一枚で絶縁されたレイヤー 構造になっていたのです。上から割れたところに ハンダを流すと下のアース層にまで到達し、 ショートしてしま います。 日立のサービスには部品はとうにありません。OEM 供給元のムラタに問い合わせても、類似品も含め て十年どころじゃない昔にその手の商品自体が製 造中止になってるとのこと。それもそのはずで、 最近はアナロ グ(ローパス)・フィルターは DA コンバーター IC の中に組み込まれているので、独立した商品は存在しないのです。そ こで色々検索していると eBay のオークションには 良く似た形のムラタのフィルターが出ていたの で、仕方なく海外から購入してみました。ところ がそのフィルターはカットオフが10KHz ほどのエフェクター用のもの で、音は出るものの高音がカットされてしまいました。それをばらして中のチップ・コンデンサーなどを取り替え、カットオフ周波数を変更しようかと思っ たのですが、オリジナルのものとは回路が違い、 おまけに抵抗の方はチップ 部品ではなくて基板にカーボンを直にプリントしたもののため、価を変更できません。

 次にオンキョーの C-700 の予備としてとっておいたムラタのフィルターを流用してみました。こちらはセラミックに封入されたもので、構造もオペアンプ二個構成で同じようなものに思 えます。どちらも前段のディジタル・フィルター は2倍オーバーサンプリング・タイプですので、 カットオフの特性も似たり寄ったりでしょう。た だ、Lo-D の入力端子には10数ボルトの電圧が来ています。 0.47uF のコンデンサーを一個直列に入れて直流成分を切り、ピン配置の違いをジャンパー線で直してつなげてみました。すると音は出るのですが、何分かすると発振し て歪み出します。回路を見ると日立の方には本来 のフィルター の前に 300KΩの抵抗と3300pF のコンデンサーをパラッたものが直列に入っていました。これも一種のフィルターを形成しつつアッテネートさせているようです。そこで同じものを入れてみた ところ、無事音が出まし た。ところがどうも、その音が オリジナルの日立のフィルターを付けていたときと比べると線が細く、潤いのない感じに響くのです。どっしりせず、薄っぺらい音です。こういうものは全体の 回路との相性がありますから、オンキョーで良 かった ものが日立の回路に入れるとバランスを崩すということは大いにあり得ることです。

    murata

   C-700用 のムラタのフィルター

 そこで今度は DENON の DCD1500のパッシブフィルターを拝借してくることにしました。これも教えてもらった情報なのですが、
個 人経営のメーカーで Lo-D HDA-001 と恐らく似た回路を用い、しかしフィルターの部分をスピーカーのネットワークのようなバカでかい空芯コイルで作ったパッシブ型(給電をかけず、オ ペアンプ も用いず、L [コイル] とC [コンデンサ] のみで構成したもの)フィルタ式の DA コンバーターが存在していたそうです。ビートルズのギター・メーカーに関係ある名前のコンバーターです。そしてDCD1500 も同じ構造で、 リニアフェイズ式のパッシブ・フィルター(フィルター・カーブにはリニアフェイズ以外にもバターワース、チェ ビシェフなど、計算式によって いくつもの種類があります)を 用いています。しかも1300 とは違ってフィルター部分が独 立した基板に組んであるので、 外して流用しやすいのです。
 ところがこれはかなり賑やか な音になってしまいまし た。コンデンサーが銅箔スチロールタイプですから仕方ないかと思い、XICON のアルミ箔スチロールに交換し てみました。大分良くなりまし たが、まだ少し不透明感がある のは恐らくフェライトコアのコ イルのせいでしょう。しかしそ の価は40mH 〜80mH 超えのコイル五つという代物 で、空芯などにはできそうにあ りません。手元にあるパーマロ イ棒にエナメル線を巻いて自作 するという手もありますが、音 の保証はありません。

 いっそ直結にしてみたら、と いうので前述のコンデンサーで 直流成分をカットして IN と OUT をつなげてもみましたが、ディジタル・フィルターの方は省略した方が音が良くなるのに、アナログ・フィルターはそういうわけには行きません。やるまでもな いことでしょうが、折り返し雑 音が混じってきているのでしょ う、どことなくギラついた、痩 せたやかましい音になってしま います。長く聞いていると疲れ ま す。

  結局、壊してしまったオリジナ ルのフィルターと同じものを基 板上に作り直すということに なってしまいました。件の多田 オーディオの社長さんは作った ことが あるそうで、回路はいただいた 情報に加えて、自分で起こし たもので検証しました。チッ プ・コンデンサは一つひとつ外 して LCR メーターで計りましたが、全部3300pF でした。フィルターの設計とし て例外的に思えますが、オーク ションで買ったムラタのフィル ターも別の値ながら同様に一つ の容量値でしたから、恐らく表 面に 値の表記されていないチップ部 品を扱う際の便宜として一つ値 に統一し、抵抗の方をその分ず らした変則設計のフィルターな のだと思います。テキサス・イ ンス ツルメンツにはあらゆる種類の アナログ・フィルターを自動で 計算できるソフトウェアがあ り、一般に無料で公開されてい ますので(WEBENCH Filter  Designer)計算してみたところ、そういう形式のフィルターはありませんでした。

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   製作したアナ ログ・フィルター配線図

 さあ、アナログ・フィルター の製作です。今回はせっかくで すので、コンデンサーはセラ ミックにはせず、スチロール・ コンデンサーにしました。ただ し 3300pF という値は大きいので、アメリカからシーメンスの古いストックを取り寄せました。富士通と提携して作ったものも本国のものも色々試しているので音は信頼し ているのですが、今回のは赤白 のボディカラーの未知のモデル です。抵抗はカーボン皮膜だと 銘柄不明の場合もあり、REX なども考えましたが、結局今ま でで落ち着いた音であることを 知っているカーボン・コンポ ジット型の中から OHMITE にして、これも米 Mouser から取り寄せました。国内のものは値が歯抜けになって細かく揃えられなかったからです。こうして一から作り上げたアナログフィルターですが、オペアンプに MUSE01 をおごったせいもあってか、大変良い音になりました。オリジナルのムラタのものは、比較して聞くとかなりきらびやかな個性が乗るようで、恐らくチップコン デンサーのキャラクターではな いかと思います。しかし他の回 路とのバランス上、うまくこれ がはまっていたせいもあり、自 作したフィルターだとやや高域 が 引っ込んだ感じに聞こえる場面 もありました。後に電解コンデ ンサーのほとんどをブラック・ ゲートにした段階で、その高域 のやかましくない傾向 はそのままに、エネルギー感が増えた分だけ素晴らしいバランスになりました。ニッケミのソフトな音の電解等、低音重心の部品でくみ上げる場合はオリジナル の方がそれらしく聞こえるかも しれませんが、クオリティは断 然作り直した方が上です。

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   出来上がったア ナログ・フィルター。表(左) と裏(右)

プ リアンプ変更
 話 が長くなりますが、ディ エンファシス回路をその一部に 含むプリアンプ部に使われてい る二回路用の三菱 M5219L のオペアンプも 交換してみることにしました。 ここは前述したように DIP 配置のものではないので、脚を 変換してやらないといけませ ん。自作で変換基板を作ろうか と思いましたが、米ブラウン・ ドッグから専用の変換基板を出 してくれているようなので取り 寄せました。到着した基板に交 換用の下駄を履かせて色々とオ ペアンプを取り替えてみました が、 結論から言うとオリジナルの M5219L はなかなか良い オペアンプでした。 4558 DX にしても OP275 にしてもこれより良くなったとは言えず、唯一改善できたのはまたしても MUSE01 のみでした。 I/V 変換部に使用した LME49990(裏表基板で二回路用にしたもの)は繊細な高域ながらエネルギーが高い方に寄らないおとなしい音になりましたが、すでに I/V 変換に二つずつ使っているせい もあり、両方ともこれにすると 高域が引っ込み過ぎになったの で 採用しませんでした。アナログ・フィルターを自作しない場合は案外良いバランスになるかもしれません。LME49990 は C-700 で実験したときには繊細ながら高域はバランス的に十分出ている感じでしたが、今回は二カ所とも静かで繊細、やわらかい音という印象になりました。元来そういう性質を持って いるのかもしれません。 MUSE に すると、これは大変ディテール が出て表情が豊かになったよう に感じます。グレードが一つ違 うかのようです。 

    browndog
      ブラウン・ドッグ製のオペアン プ・インライン/DIP 変換アダプター 

    m5219l    browndog2
     
プ リアンプ部のオペアンプ M5219L                 変換アダプターで MUSE01 に変更 
 
試聴と結論

 HDA-001改、これはかなり良い出来となりました。「LP に負けない音を
CD で」 というコンセプトの下、迷路の中で追い続けて来た夢の旅路の最終地点と言っていいかもしれません。CDトランスポートはちょっ と古めの CEC のベルト・ドライ ブの ものを使用して います。

 チリチリした高域の不透明感は銅箔スチロールと U-con を外した段階でほぼなくなりました。その段階ではONKYO の C-700 に対してやはりまだ負けていますが、単独の DA コンバーターとしては今までで一、二を争うものと言ってよいのではないかと思います。C-700
飽 和状態にならない静 けさの中で音数が多く、ク レッシェンドが立体的で表 情の諧調が広い印象です。つまり、あ る楽器が強く鳴っているときに他の楽器がマスクされずに聞き取れ、音 の出方に当たりのやわらかさがあって、それが生のホールっぽさとまでは言わないもののアナログ的な雰囲 気を漂わせます。それでいて解像度が高くて細かなディテールも出るのです。こ ういう点でどんな機械も積分型の C-700 には太刀打ちできないように思えます。た だ C-700 は低音に力があるという感じではありません。その点この Lo-D HDA-001はトロイダル・トランスの大きさからか優位な面もあるようです。そして溌剌とした Lo-D の音 は、2倍オーバー・サンプリングという低次のディジタル・フィルターのおかげでソース本来の活気が殺さ れないせいでしょう。

 さて、いよいよ本題です。オペアンプを
LME49990 とミュー ズ 01 にして、アナログフィルターをスチロール・コンデンサーとミューズで作り替えました。すると高域が固まらないのにディテールの表情が一段増しました。これ は大きな飛躍です。さらに電解コンデンサーをブラック・ゲートにすると音色の素直さと同時にエネルギー 感が出て、音に実体感が加わるようになりました。こ こまで来るとネイム・オーディオの CDS より良いですし、トータルの音の質の高さで C-700 を超えたかもしれません。今のところ私はこの音が一番好きです。 LME 49990 の個性も影響しているのかどうか、繊 細に高域の表情を拾うのに弦らしい瑞々しいやわらかさを失いません。輪郭がはっきりしているのに見通し が良く、一段静かな感覚です。個々の楽器が十分に分解されて空間に広がって行く余裕が感じられるので す。C-700 の方は強化された電源ではないですし、なによりもアナログフィルターはチップパーツとオペアンプによるム ラタのパッ ケージ品のままです。同じように改造する余地を未だ残したままという意味では C-700 の方がポテンシャルは高いかもしれませんが、少なくとも PCM53 というバーブラウンのラダー型 DAC チップでここまでの音が出せることは確認できました。
 
    trans
     大 型のトロイダル・ トランス


他 方式(フィリップス型/積分 型)との比較
  そして改造を施してディジタル・フィルターを外したフィリップス系の雄、CDA-94 とこの HDA-001 も比較してみました
HDA-001 の オペアンプ を OP42 にして、アナログ・フィルターをノーマル状態のままの段階では、両者はか なり近い音になり、よく聞かないと違いが分かり難いです。フィリップスの機械は元来 ちょっとヴェールをかぶったようなおとなしさがあって、 その中に少し硬い芯が残ります。それは4倍オーバーサンプリングのディジタル・フィル ターの音かもしれません。それを外して NOS(Non Over Sampling/やり方は CDA-94のページ参照)にすると、元気が良くなり過ぎるので他の部品でおとなしいものを選ばなくてはならなくなりますが、かなりいい線行きます。C- 700 と比べてしまうとやわらかいところとはっきり音のエッジを出すところとの差で負けますが、それはこの段階の Lo-D でも同じです。抵抗ラダー型16ビットの Lo-D の方は初めダイナミックで元気の良い、ちょっとラフな感じがあったわけですが、部品交換後はかなりおとなしくなりました。両者の違いと言えば、マランツの 方が若干ながらやわらかい中に艶を感じるで しょうか。一方 Lo-D の方はやはりソリッドで前へ出る素直な感触が幾分残っているでしょうか。でも何の予告もなく音楽をかけられたのでは、恐らくどちらだか分からないことでしょう。

 ちなみにマランツと同じ TDA1541A で4倍オーバー・サンプリングのフィルターを搭載したまま絶妙のバランスを取っているネイム・ オーディオの CDS と比べると、ネイムは力技の電源部に加えて上手く味を整えているので、
一見繊細で艶っ ぽくて、やわらかいムードを具えているように聞こえます。ただ、ディジタル・ フィルターによる反応の鈍さは隠し持っていて、それがある帯域(中高域)で若干不透明な押しの強さとなって現れることがあるようです。軽いマスキングと 言ったらよいでしょうか。その点 NOS や2倍オーバーサンプリングの方が良いかとは思いますが、これはこれで綺麗な音なので優劣はつけ難いです。

 そんなわけで、積分型の C-700 を除けば、ディジタル・フィルターを外したフィリップスの16ビット・コンバーター
CDA-94(ア ナログ・フィルターはチップ式)、同じくフィリップス方式で4倍オーバー・サンプリン グ・ディジタル・フィルター機の ネイム CDS(アナログ・フィルターはディスクリート)と、この16ビット抵抗ラダーの2倍オーバーサンプリング・ディジタル・フィルター機、HDA-001(アナログ・フィル ターはノーマルのままのチップ式)はほぼ互角と言ってもいいと思います。表情の出方は好みの問題で しょう。
 

  そして HDA-001 を LME49990 と MUSE01 のオペアンプに交換して、アナログフィルターもスチロール・コンデンサーと MUSE で作り替え、電解コンデンサーをすべてブラック・ ゲートにすると、前述した通り、これ は全てを超えた音になりました。私の知る限り、DA コンバータのベストと言ってよいでしょう。ただし、 残念ながら積分型とフィリップス式、 抵抗ラダー式の勝負は結局決着持ち越しです。というのも、フィリップス式に関しては私はアナログ・フィルターをノーマルのまま、つまりチップ部品を使った ムラタのパッケージ品のままで聞いているわけですし、ディジタルフィルターも外すか4 倍のままかであり、2倍の Lo-D とは違います。積分型も同様にアナログ・フィルターがチップ型のパッケージ品のままです。ディジタル・フィルターの倍数とアナログ・フィルターの造りは音 に大きな違いを生み出します。DAC 以外極力同じ回路と部品で揃えないと完全な比較はできないでしょう。

    hda001a

PCM1704 機
  あと一つ、どうしてもこだわる人がいるとするならば、抵抗ラダー型の最高峰は PCM1704 だという主張でしょう。ハイエンド機に軒並み使われたこと、チップ自体の価格が最も高価なこと、レーザートリミングで部品精度が高いとされていること、そ して最終型だということから 1704 は神話になっているようです。構造は 1702 と変わらず、メーカーが宣伝しているその
レーザートリミングによるス イッチ精度の点と、24ビットに対応しているか否かというところで違いはありますが、 中身はほとんど同じなのでこの神話には 1702 も含めて考えて良いのだろうと思います。このマルチビット最後の IC、1704(1702)と、それ以前の二桁番台の PCM 53〜56 との違いは、単体で見れば前者が24ビット(20ビット)制御になっているというところです。これについては色々意見があるようで、CDの情報量である 16ビットですら正確な動作は難しく、ぎりぎりの処理をしているのが現状なので、それ よりも大きな情報量で動かす IC は理論倒れでかえって音が悪くなるという理屈もあるようです。私には分かりません。言えるのは、それを使ったハイエンド機の音が優れているわけではないと いうこと、同じ8倍オーバーサンプリングのディジタル・フィルターを使ったプレーヤー 同士で、16ビット制御の初期の IC の方がナチュラルに聞こえたケースがあったということです。ただしそれは4倍オーバーサンプリングも選べるフィルター IC を使っていたので、4倍で動かしていたのかもしれません。PCM1704 を含めてこの時代の DA コンバーター IC はチップ自体に今のようにはディジタル・フィルターを内蔵させていませんので、外付け構造になります。したがって何を使っても良いわけですが、1704 に関してはメーカーは 8倍オーバーサンプリングのフィルターの使用を前提としており、それを推奨していますので、必然的に 1704 機のほとんどが8倍のディジタル・フィルター搭載になっています。高級機の音が良く思えない理由には、この8倍以上の高次のオーバーサンプリング・ディジ タル・フィルターの問題が含まれている可能性があります。ディジタル・フィルターの次 数は冒頭でも触れましたが、低い方が音色の自然さでは有利だと思いま す。高次になるとノイズ感は減りますが、平板でどこかつぶれた音になります。したがっ て私は 1704 機はどうしても遠慮してしまいがちになるのです。ただ、フィルター別体なわけですから、裏をかけばディジタル・フィルターなし(あるいは2倍オーバーサンプリング) で行くということも可能でしょう。事実、有名ではありませんが海外の個性的な小メー カーのものにノン・オーバーサンプリングで 1704 使用の DA コンバーターもあるようですし、自作で挑戦する人もいるようです。そうしたアナログ・フィルターのみ(もしくは2倍オーバーサンプリング)の上手く出来た 1704 機が PCM 53〜56 の機械より良いかどうかの判断は微妙な領域に入って行きそうな予感がします。16ビットで無理なく動かす PCM53(54, 56)の方が有利か、レーザートリミングで精度を上げた PCM1704 の方が有利か、これもディジタル・フィルターを低次にした同じサーキットで試してみなければ分からない問題です。

* 本文で何度か言及したお店、多田オーディオでは、私のやったような HD-001 の改造機を作って売ることがあるようです。頼めば今でも製作してくれるのかもしれません。私はそこと商売上の関係があるわけでも何でもないです が、自分でやってこれだけ苦労し、何度も壊してしまったような難作業を、いくらプ ロとして手際良く仕上げるとはいえ、仕事にする人がいるというのは驚きで す。情報もいただき、大変感謝しています。

時 は流れて行き、世の中に変わらないものはありません。この記事を書いた後、多田 オーディオの営業事情にも変化があったようです。



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