マランツ(MARANTZ) CDA−94

   
cda94
      Marantz CDA-94    マランツ初の DA コンバーター。文字やストライプなどはデザイン上の好みで消す加工を施してあります。 


このモデルの位置づけ

 Naim のCDS同様、 フィリップスの定評ある初期のDAコンバーターICであるTDA1541をシングルで使ったDAコンバーターで す。 TDA1541(A)の独立したDAコンバーターはフィリップス=マランツ系以外ではミュージカル・フィデリティなどがあるにはありますが、それ以外はほ とんど完成品ではなく、アマチュアや小メーカーが供給する基板のみのものが出ているぐらいです。このモデルは単体のDAコン バーターとしては市場に最も早 く登場したものの一つであり、同社のCD−94というCDプレーヤをグレードアップさせる用途で企画されました。これと全く 同じ中身でフェイス・パネルの みが異なっているのがフィリップ ス・ブランドで最初に欧州市場に登場したDAC960です。日本の会社がアメリカからブランド名を買ったマランツとオランダ・フィリップス社とは当時提携 しており、一体となって製品を開発していました。マランツではその後CD−94(一体型プレーヤ)の後期型と
CD−95 でTDA1541Aを ステレオのチャンネルごとに分けて二個使った回路にし、マランツ・ブランドの最も高価なDAコンバーターで主に東洋市場で売 られたプロジェクトD−1も同 じ構成でしたが、フィリップスの最高峰であるLHH−1000はこのCDA−94と同じ従来の1チップの回路を採用していま した。左右独立にするメリット は音質的にはよく分かりません。ヨーロッパで売られた DA コンバーターである DA-12(トランスポート部は CD-12)は LHH-1000 と中身がほとんど同じだったようです。

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       PHILIPS  TDA1541
   
構 成
 このDAコンバーターは入出力が豊富で、入力はディジタル同軸が二つと光、DATで、出力も通常のRCA固定、音量可変の バリアブル、DAT、バランス 出力の4系統あります。バランス出力はケーブルの伝送距離が長い場合は有用でしょうが、音楽信号が出力トランスを通過して回 路が複雑になるので音質的には 不利です。また、ボリュームを通過するバリアブル出力も固定出力に比べて鮮度の低下が感じらます。面白いのは、このような理 由で使わなくなった回路は、そ の基板とつながっているコネクタ(カプラ)を外しておくと音質が改善するということです。音楽信号が直に流れる直列の素子だ けでなく、並列(にアース側へ と落とす部分)の素子も同じように音質に影響することは知られています。いわば足し算ではなく、引き算(した残りの形)で音 が変わるわけです。 しかし今回のケースでは、使わない並列の回路がただぶら下がっているだけでも音は直列の素子同様に影響を受 けるということになります。 ぶら下がっているのですから並列ですらなく、相手の出口は切断されているわけです。電子回路の理論ではそういうことはないはずなのですが。別れた配偶者に 子供を連れて行かれた人と独身者との違いは振る舞いで分かると言っているみたいです。ただし、ぶら下げた回路が存在する状態 で音のバランスが取れていた場 合は、外すときつい音になったりもしますので要注意です。今回は音を聞いてシステム1の入力と固定同軸出力以外のカプラを外 しましたが、表示基板経由でバ ランス出力基板へとつながるカプラは残しました。

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       Marantz Project D-1   TDA1541A を使ったマランツ・ブランドの最後発の DA コンバーター。
ア ジア市場向け。

音の感じ
 さてCDA−94の音ですが、そのまま聞いてみると独特です。帯域バランスは案外ハイ寄りというわけではなく、むしろ高域 がややオフなので聞き始めはお となしい音なのかと思いましたが、どうもそうではなく、奥の方に芯のある硬い音です。フィリップスのLHH−1000はこれ より分解能を高く感じさせて高 域のエネルギーバランスが勝ったように聞こえるのですが、硬さはむしろ少なくてさらっとした繊細さが前に出ています。このマ ランツは回路構成的には 1000に似ており、大きな違いは電源トランスが1000の方はすべてトロイダルであるのに対し、マランツはアナログ用はト ロイダルであるものの、ディジ タル部へ給電する二つにはEIコ アが使われていることでしょうか。ギャップによる歪みの少なさと磁束漏れの点でトロイダルの方が有利なのですが、コストの問題でしょう。しかし音の違いの 主な原因はコンデンサや抵抗などの細かな部品かもしれません。

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        Marantz DA-12    PHILIPS LHH-1000 とほとんど同じ内容のマランツ・ブランドの DA コンバーター。欧州市場向け。

単体
DA コンバー ターの魅力
 NaimCDSがありがなら回路がよく似た CDA−94を手に入れてみたのは、独立のDAコンバーターと して TDA1541A使用のものに魅力があったからです。パソコンからも音が出せますし、CDの回転系が壊 れても、音が180度変わってしまうリスクなしにトランスポートだけどんどん交換できます。壊れやすいのはメカ部分なのです。たとえ高価なトランスポート を用意できなくても、5万円以下のCDプレーヤーですら最近はディジタルOUTの端子がありますから、それをドライブとして だけ使って、DAコンバーター さえしっかりしていれば音はそこそこ満足できるでしょう。CDを回してディジタル信号を取り出すだけのCDトランスポートは 信号処理過程がディジタルです から、ベルト・ドライブであろうがブラシレス・モーターであろうが回転ムラなどは感知せず、筐体が重くがっちりしていようと いなかろうと影響はなく、回路 のコンデンサに何を使おうが読み取りエラーさえなければ関係ないからです・・・と言いたいところですが、聴感上はなぜかそう ではありません。
使 わないカプラー外しといいこの問題といい、電 子の世界ではシュ レジンガーの猫じゃないけど不思議なことが 起きているようです。それでもなお、DAコンバーターとCDトランスポートとでは、9:1か6:4かの割合は分かりません が、DAコンバーターの方が音色に影響する率が大きいことは事実でしょう。

改造
 さて、NaimCDSの音が素晴らしかったので、そのバランスを狙ってCDSで使われている部品をできる 限り集めて交換してみました。改造の概要は以下 の通りです:

1.大型トロイダル・トランスと大容量コン デンサ、ローノイ ズ・レギュレータによる電源部の強化。

2.ディジタル・フィルターを外し、ノン・ オーバー・サンプ リング(NOS)にする。

3.オペアンプの変更。

4.コンデンサ、抵抗などの素子を音色の良いものに換える。


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       コ ントロールICと電源部の小型トランジスタを除いてほとんどのパーツを交換してみたが...

   オリジナルでは、電解コンデンサ類はほとんどエルナー製のものが使われています。アナログ電源の平滑コンデンサは8200uF でしたが、現在の
Naim が 使用しているものの一つである英 Kendeil の 22000uF に、ディジタル基板へ給電する 3300uF と6800uF はフィリップスのチューブラー031/032に交換しました。最近はインピーダンスを下げるために小容量のコンデンサーをたくさん並べて容量を稼ぐのが流 行ですが、ここでは昔ながらの単体での大容量のもので行きました。平滑コンデンサーは容量が大き過ぎると低音寄りのバランス になることもありますが、大抵 は余裕のある音になります。

 電源以外の電解もオリジナルはエルナーの赤地に金のセラファインです。エルナーの音響用電解コンデンサはセラファインにせ よシルミックにせよ独特の高域 強調があるように感じます。名前の印象からかシルミックを「絹のように滑らか」と表現する人もいるようですが、どうもそのよ うには聞こえません。今回、エ ルナーの電解が使われていたところは、
ブ ラックゲートでは全部揃えられないこともあり、CDS 同様にほとんど湿式タンタルのビーズ・コンデンサに置き換えました。Kemet 製の黄色いもので統一しましたが、タンタル・コンデンサは電解コンデンサよりも周波数特性が良く、それでいてさほど高域がきらびやかにならないところがあ るようです。この傾向はあまり銘柄に関係なさそうです。例外として470uF のものはフィリップスのチューブラー033、ディジタル基板と電源基板の220uF はフィリップスのラジアル037、アナログ基板にあるムラタのアナログ・フィルタ後段の220uF はOSコンを用いました。ここをタンタルにせずOSコンにする ことで、8KHz 以上での繊細さが増し、2〜3KHz ぐらいかと思われる帯域に若干の艶が出ました。同じものばかりで構成するとそれが仮に素性の良い素子であったとしても、そのわずかな癖が集まることで強調 されてしまいますので、このように少し違う部品を混ぜることで音の表情を調整するということはよく行います。組み合わせ方が 無限にあるのでなんだか小手先 のことをしているような気になりますが、タンタルだけのときは高域のあまり高くないあたりにわずかなきつさが感じられるバラ ンスになっていました。かと いってOSコンばかりにすると細い音になりますので要注意です。ブラックゲートのNXも試したのですが、やはり高域に若干前 へ出るエネルギーの強ささが加 わったのでやめました。ブラックゲートは良いコンデンサなのですが、回路のバランスが悪いときに限るかのどうか、周囲の素子 のネガティブな癖を強調する能 力もあるようです。全部をブラックゲートにして上手く行った例をいくつも知っているのでちょっと例外的なコンデンサーなのか もしれませんが、もう製造中止 ゆえに全部をそれに揃えることはできません。フィリップスの037も試しましたが、ここではややがさっとした感触が乗ってし まいました。もちろん、これら の素子は組合せが変わればバランスも変わってくるので、たまたま今回の改造順序ではそのように聞こえたに過ぎません。

 電源トランスはCDSにならって大きなトロイダルのものに換えました。とくにアナログ部はアイルランドの Nuvotem 製の不必要なほど大きなVA規格のものにしてあります。他はRSコンポーネンツ製です。面白いのは、トランスを 取り付けるときに上から押さえる付属の鉄の円盤を使うと明らかに音が濁ることです。
Naim は こういうものを使っていないのはさすがだと思いますが、 磁性体のネジも含めて材料には注意した方が良いと思います。今回は鉄の円盤の変わりにポリカーボネートの板を切り抜いたものを自作し、真鍮のネジで固定し ました。同様に、トランスから漏れる磁束を懸念してわざわざ磁性材の鉄板を用意して基盤との間とトランス上部を 囲うようにシールドしてみたのですが、それも音が濁りました。力作だったので外すのは残念でした。

 整流ダイオードは定評のある31DF2に換えました。付いていたのはその一つ前のモデルである30DF2でし たが、交換した直後は大変音が変わったように聞こえ、徐々に慣れてきて落ちつきました。そのため正確な比較はできないのですが、31の方がやや潤いと繊細 さが増したように感じています。マニアに人気のあるショットキー・バリアダイオードもありますし、VISHAY のウルトラ・ファーストリカバリー・タイプもありますが、後者は他で一度使った限りではやかましく感じて好みではありませんでした。それもバランスの問題 ですが。

 三端子レギュレーターは7812、7805、7906ともに−20dB ローノイズをうたうフィデリックス製のものに交換してみました。小型トランジスタとチップ部品を基盤上に配し、ディスクリートに構成したもので、同じよう な商品がデンマーク製でも出ています。これも交換した直後は音の違いがはっきり分かります。印象としては透明感が増すように 感じます。ただ、デリケートで 壊れやすいので将来の安定性を考えると換えない方がいいかもしれません。

 フィルム・コンデンサーの類は
Naim に ならってシーメンスのMKH積層ポリエステル、スチロール・コンデ ンサなどを用いました。積層フィルムは巻いてない分共振しやすいという人がいますが、裸電極100Vのこのポリエステル・タイプに限ってにぎやかさがな く、良い音でした。スチロール・コンデンサ(polystyrene capacitor)は材料の関係で現在では製造されておらず、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどに取って代わられていますが、音はス チロールの方が伸びやかで自然なものが多かったようです。途中評判の良いドイツEROのKP1830やスウェー デンEVOX− RIFAをはじめWIMAのポリエステルとポリプロピレン、フィリップス、松下のメタライズト・ タイプなど多数ポリエステル−ポリプロピレン系も試してみましたが、一長一短で採用には至りませんでした。金属外皮(?)で固めたメタライズド(多くは茶 色)の中にはほどほど良いものもありましたが。それ以外では、今手に入るものでスチロール・コンデンサの代わりになるものに マニアの人に人気のシルバー ド・マイカ・コンデンサがありますが、ハイエンドまですっきり延びるもののガラス質の硬質な音になりがちです。

 抵抗は細身ながら艶があり、わりと正確な音がする Bispa の金属皮膜 LTMFS、温かみのあるカーボン・コンポジットの OHMITE 、それよりふわっとした感触のあるカーボン皮膜のタクマン REX などを音を聞きながら使い分けました。DALE の無誘導巻線抵抗はスピーカーに使うと優秀ですが高域寄りのバランスになってしまうことがあり、アナログ信号部に試してはみましたが今回は使いませんでし た。フィリップスのSFと VISHEY の金属皮膜なども試すだけになりました。これら複数の銘柄の抵抗を数十箇所にわたって取り替えるとなると、その組合せ数は天文学的になるため、見当をつけ ていくつか試行錯誤するのが関の山です。今回は錫メッキ単線を基板の上に2本長く飛び出すようにハンダ付けしておき、その先 に部品をチョン付けして試聴し ましたが、抵抗にまでは手を出さない方がいいかもしれません。カーボン系のみにしておけば嫌な色は付きません。


 cda94trial2  cda94trial1 
      錫メッキ単線の上に 部品をハンダづけして音を試している状態。 電源部のコンデンサはどれにするか...


 元々ついていたTDA1541はCDSと同じ1541Aのシン グル・クラウン(ローレックスのような冠マークが一つだけ付いている選別品で、マランツのプロジェクトD−1に使われている ダブル・クラウンは台湾製)に 交換しました。音は1541の方はやや粗削りでエネルギー感がありながら高域がでしゃばらない感じ、Aが付く方は馬力はない ながらより高域が繊細なバラン スに聞こえました。しかしその違いは決定的ではなく、他の素子を変えると吸収逆転されてしまうことがある程度のものに感じら れます。ダブル・クラウン/シ ングル・クラウンの違いなど、ちょっと大げさに言われ過ぎではないでしょうか。そこにこだわるぐらいなら、その横に並んでい る14個のコンデンサーを交換 した方がよほどインパクトがあります。

 オペアンプはシグネティクス社が開発した古典的なICの新日本無線版、JRC5534DがI/V変換、ア ナログ出力ともに使われていたものを、CDSと同じアナログ・デバイセズのOP42(GPZ)に交換しました。5534も良いものですが、OP42は大変 優秀で、バーブラウンのオールFETオペアンプOPA604と比べると、604が中域に厚みがあって少しかぶったような息苦 しさを覚えるのに対し、高域が やかましくはならずに伸びていて、しっとりとした中に繊細さも出てきます。CDS以外でもクレルなどに使われているようで す。マーク・レヴィンソンが使っ て有名になったOPA627とデータ比較してもスルーレイト(波形立ち上がりの良さ)は同等のようです。音は627より硬さ が少なく感じられます(詳しく は「オ ペアンプの音質比較」を参照してください)。


   nosboard
      NetAudio社製 NOSコンバーターで4倍オーバーサンプリング・ディジタルフィルターを外す。 SAA7220P/Aと差し替えるだけでいい。左が水晶発振子がついたもの。どちらも基板自体を多少改造。



    saa7220pa.jpg
     4倍オーバーサンプリング・ディジタルフィルター SAA7220P/A。これを外す。


ノン・オーバーサン プリングにする 
 さて、一番興味のある改造です。4倍オーバー・サンプリングのディジタル・フィルターはその功罪が色々に言われ、その処理 をしている SAA7220P/AというICを外してノン・オーバーサンプリング(NOS)にする市販の基板が出ています。DAC本体側 のプリント・パターンをカット して別の線をつなぐ方法で改造する手もありますが、元に戻せなくなりますので、このように専用基盤に差し替えるだけでフィル ターをジャンプできるのは便利 です。 今回手に入れたのはイギリス NetAudio 社のNOSコンバーター二種で、一つは水晶発振子を乗せたリクロッ ク・タイプのもの、もうひとつは本体クロックをそのまま生かすものです。どちらもノイズフィルター用途で220uF のルビコン製電解コンデンサ(デカップリング)、0.01uF の WIMA のポリエステル・フィルム、 値不明の小さなチップコンデンサーがアース側とパラッてあります
(バ イパス・コンデンサ=パスコン)。 どれもなかなか音のバランスの良いコンデンサですが、電解、ポリエステル・フィルムともに色付けが出る欠点がノイズの影響よ りも大きく感じたので、一旦思 い切って外してしまいました。代わりに本体内クロックを利用するタイプについてはシーメンスのスチロール・コン デンサをとり付け、両者ともにインターテックのKPSNという錫箔コンデンサーを延長コードでつなぎました。これらはただ音色の調整のためにそうしただけ で、元の容量からはズレています(パスコン用途は 0.01uF でも 0.1uF でも支障がないです。電解の方は安全策で戻しました)。ただ、このNOS用基板にはロジックICの 74HC74Aと74HC04Aが使われてお り、外れにくいフィルム・コンデンサを外す際に長くコテを当てたりするとそこが簡単に壊れてしまいます。表面実装用の同じICを購入して何度か取り替える という泥沼にはまりましたので(繰り返すとプリント基盤が剥がれてしまいます)、この基板は改造しない方が良いかもしれませ ん。そして二種類の基板のう ち、結局リクロックするタイプの方 (名前はリクロックとなっていない方)がその分だけ細かなディテールを出してくるのでそちらを選びました。ただこちらは不安定でノイズが出たりすることがあるようなので要 注意ですが。

 結論ですが、NOSにするのと4倍オーバー・サンプリング・ディジタルフィルター付きとでは、あきらかに フィルターなしの方がベールが一枚剥がれたようになって表情が活きいきとしてきます。ただ、単純に外すだけだと元気が良過ぎてしまい、高域が強調されたか のようになって少々きつくなりました。他の素子でバランスを取ってやるとある程度滑らかなバランス点を見つけられます。一方 4倍オーバー・サンプリング フィルターだと滑らかではありますが表情がもの足らなくなりがちで、全体にオフに感じます。どちらを取るにしても音のバラン スを他の部品でそれぞれ逆方向 へと整えて行かざるを得ないわけで、どちらからバランスを取る方がいいかと聞かれたら、NOSの側から高域のあばれを抑えて 行く方が情報欠落が少ない気が します。アナログ・フィルターの次数設計を綿密に対応させているディジタル・フィルターなんか外して、高周波のパルスノイズ が洩れ出てきて音を濁すのでは ないかと思われそうですが、そういうことはありませんでした。一方、アナログ・フィルターを外すのはもちろんだめです。やっ てみましたが、なんかコバエに つきまとわれたみたいにうるさく、ギラギラした嫌な音が含まれているように感じます。一瞬だと元気の良いだけの音にも思える のですが、ちょっと長く聞いて いると耐えられなくなりました。

 改造の方法、部品の選択は無限にあり、今回はたまたま気が向く順に音を聞きながら変えて行ったに過ぎませ ん。電源トランスも、ただ取り替えるだけでは低域の出方が強まってバランスを崩したりしますし、ノーマル状態でも他の部品の選択によっては良い音に聞こえ ていた瞬間もありました。ローノイズ・レギュレー タも同じことで、一つひとつが集まって大きな違いになります。ディジタル・フィルターを外してノン・オーバーサンプリングにする改造もネット上では切り札 のように言われていますが、うまくバランスを取れば Naim CDSやPCM 56を使ったDENON初期のプレーヤーなどのように4倍オーバー・サンプリングのままほどほど良い音に持ち込める場合もあります。8倍以上になるとさす がにだめだと思いますが、どの方法もある程度は料理の味付けと同じように考えた方がいいのかもしれません。

試 聴と結論
  さて、大変楽しんだ(手間のかかった)改造でしたが、これによってCDSとほぼ互角のバランスになりました。アナログ・フィ ルターを集積チップのものから 作り替えれられれば凌駕できるような気もします。現時点では出方は似ていますが微妙に音色が違い、曲によってCDA−94改 の方が繊細に聞こえたり、 Naim の方が滑らかに感じたりします。音 の素直さという点では4倍オーバーサンプリング・ディジタル・フィルター の CDS に勝っていると思います。反 対に CDS を2倍オーバーサンプリングにしたら負けるかもしれませんが。NOS の場合、測定上はアナログ波形の中にディジタルのノイズが洩れてきているはずですが、前述の通り耳には全く聞こえません。TDA1541Aを使ったDAコンバーター としては、アナログ・フィルターの問題を除いてはほぼこのへんが追い込む限界かなと自分なりには思っています。最近はチップ が高速になり、ΔΣ変調の原 理を使いながらもCD情報をアップ・コンバートする方式が流行りですが、音色としてはこの TDA1541Aの良くできたプレーヤーに勝るかどうかは疑問です。最近のものでも192KHz に対応しながら入力に対してのサンプリング・レートの変更は行わず、ディジタル・フィルターも用いない設計のDAコンバーターもあります(音がキツいとい う声もあるようですが)。反対にわざわざ古い16ビット のICチップを用いる小メーカーもあるようです。果して何が一番良い方式なのでしょうか。少なくとも個人的にはビットストリーム系と高次のオーバーサンプ リング技術を用いたものはだめのようです。IC の集積化が進んだことも原因かもしれません。

 今や伝説と化したTDA1541A、同じく製造完了後も根強い人気を誇っている抵抗ラダー式ICと比べて どちらが良いのかは興味あるところですが、決して懐古趣味で言うのではないながら、現代のものよりはずっと良いようです。積分型のオンキョーC−700と比較してしまうと 及ばない気もするのですが、微妙な問題です。

後記:抵抗ラダー式の DA コンバーターを部品交換によって納得できるレベルまで追い込み、このフィリップス型のコンバーターと比較試聴する作業は、その後入手した Lo-D のコンバーターでやってみました(Lo-D HDA-001)。



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